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❇︎❇︎
「バイバイ…!」
手を振って別れを告げるシルエットは、その背丈からかなり幼い女の子だと推測できる。
その小さな体には、少し大きい戸を彼女が開ける。
その子は戸を閉める直前、再び、"またね!"と言って戸を閉めた。
エコーがかかったように反響した戸が閉まる音の後、すぐにあたりが真っ暗になった。
バイバイ……、またね……。
「おーい。」
誰かの足で身体を突かれているような気がして、目を覚ます。視界の先には、妹の涼香がいた。
相変わらず、不機嫌そうな様子の彼女が言いたいことはもう分かっている。
「何回も起こさせないでよね!
私だって、暇じゃないんだから。」
「悪い…
あれ?てことは、お前が戸を閉めた?」
「はぁ!?
何、寝ぼけてんの?
戸を閉めたら、どうやってあんたを起こすのよ。戸の外から何回も呼んだけど、起きないから起こしに来たの!」
「え…
なんかめっちゃ大きな音でさ、ズドンって扉を閉め…」
まるで酔っ払いを突き放すような剣幕の涼香に気圧され、古谷は黙り込んだ。
妹のはずなのに、姉なのではないかということを錯覚する。
「ごはんだからね!!
また、二度寝しないこと!」
それを言うと、彼女はきびきびとした足取りで古谷の部屋を後にした。
せかせかとした雰囲気が部屋から消えると、再び寝ようかとも思ったが、めんどくさいことになるのは御免なため、重い足取りで布団を出た。
陽の光が漏れているグリーンの重いカーテンを開けると、窓から見える黄色壁の家が目に入る。友海の家をあまりに真面目に見すぎて、返って新鮮な気持ちになった。
存在を感じられる距離にいる友海が友達ではないなんてことを告げられても実感なんてできるはずないと古谷は思った。
これから起こる友海と過ごした過去の喪失と彼女と交わらない世界線の未来。
それは、まるで自分の人生を汚されたような、自分を否定されたような、古谷をそんな気にさせた。
ドンドン、と下から階から階段をニ、三段だけ御袈裟に登る素振り見せる音で我に返った古谷は、急いで返事をして、リビングへと向かった。
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