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二人はジェットコースター乗り場へ向かっていた。
一人の女性が声を掛けてきた。
派手なコスチュームでニコニコしながら近づいてきた。
「記念のお写真どうですか?」
どうやら、写真を撮ってくれるらしい。
真子「ただじゃないでしょう?」
派手な女性「はい。1枚五百円になります」
真子は考えた。
エリカの写真が1枚もない。
ましてや、この先自分といっしょに撮る事なんて二度とない。
エリカもどんどん大きくなる。
今のエリカを写真で残したい。
真子「ぜひ、1枚お願いします」
真子「エリカ、私の横に来て。」
真子「エリカ、もっと笑顔で笑って」
エリカは緊張した。
初めてママとの写真だった。
二人は最高の笑みを浮かべ、思い出の1枚を撮った。
エリカは写真を大事にカバンの中にしまった。
ジェットコースター乗り場に到着した。
真子「一時間待ち、まぁ覚悟はしていたけどね」
エリカ「じゃ並ぼう」
エリカ達は列の最後部に並んだ。
しばらくすると、昼間見かけた親子が並んだ。
エリカは女の子を見て、ニコッと笑った。
特に話しをする事もなく、女の子と並んでいるだけで心が通じ合える気がした。
女の子がミルクキャンディーをくれた。
エリカは真子の顔を見た。
真子はニコッと笑って、“ありがとう”と言ってくれた。
エリカは人から物をもらった事がなかった。
どうしたらいいのか少しとまどつた。
エリカ「私はエリカ」
女の子「私はマドカ」
エリカ「マドカちゃん、キャンディーありがとう」
マドカは少し恥ずかしそうにはにかんだ。
エリカはカバンの中をごそごそしだした。
取り出したのは折り鶴だった。
エリカ「マドカちゃん、あげる」
マドカは「ありがとう」と言いながら、大事そうに胸元に当てた。
エリカはマドカと友達になった。
真子もこの親子に好感を持った。
若いヤンキー風のアベックがやって来た。
ヤンキー風が全て“悪いヤツ”とはいえないが、もし“いいヤツ”だったら見た目で損をしている。
エリカとマドカの間に割り込んで来た。
やっぱり悪いヤツだった。
マドカは押されて尻もちをついた。
エリカ「マドカちゃん大丈夫?」
マドカ「……」
エリカはアベックをにらんだ。
真子もアベックをにらんだ。
真子は負けず嫌いだ、文句を言ってやろうかと思ったが、親子に迷惑が掛かるかも知れないと思い留まった。
エリカの怒りは収まらなかった。
だが、お尻の痛みに耐えているマドカを見た時、なんだか切なくなかった。
エリカはカバンの中の写真を見て怒りを押さえた。
やっと順番が回って来た。
縦二人、横五列の十人乗りの二両編成だ。
エリカ達は二列目、アベックは三列目、マドカ親子は四列目に乗車した。
ブ~~~。
ついに動き出した。
ゆっくり坂を登って行く。
頂上から急降下。
「きゃー」と悲鳴が聞こえる。
エリカは少し怖かった。
ママの顔が引きつっているのが分かった。
エリカは「楽しい!」と本気で思った。
小さな池に“ザバ~ン!”
水しぶきがエリカにもかかった。
最後はトンネルだ。
トンネルを抜けると終着駅だ。
真っ暗なトンネルに入ると、
「ガタッ、ガガガッー」
と音がした。
エリカ達の体が宙に浮いた。
「ギャッー」と叫ぶ声と同時に「ガラガラガッシャーン」と車両が、1回転、二回転と転がり壁にぶつかって止まった。
大事故である。
車輪がカラカラ回っている音だけが聞こえる。
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