2,変化

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2,変化

 ヤンキー校初日、入学式を経て、あれから数日。あたしは、授業を受けて双子を迎えに行くというルーティーンを繰り返してきた。午前の授業を終えて、昼は華と飯を食う。午後の授業の後また華と帰る。初日とほぼ一緒の毎日が続いている。が、そろそろ割りの良いアルバイトを探さなくてはならない、そう考え始めていた。  我が家は、2男3女の7人で大家族だ。もちろんそのための生活資金集めでもあるが、せめて自分の学費くらいは賄えないと、とも思っている。そして、両親がこぞって共働きでなかなか帰ってこないのも、理由がある。両親が背負っている借金が一番の原因だ。  幼いながらも、よく覚えている。両親は、面倒見が良すぎるあまり、悪い奴らに悪用されがちだった。困った人がいたら躊躇いなく手を差し伸べるし、誰でも疑うことをしなかった。そしてそれはついに、どうしようもない叔父のために、借金を抱えるまでになってしまった。ギャンブラーで酒に溺れて死んだクズ野郎だ。そんな奴にそこまでする義理は一つもないどころか、むしろ返せと言いたいくらいだ。  小学4年に上がるころには、叔父の借金が発覚し、どうにか肩代わりせざるを得なくなった。当時、年金暮らしの祖父や祖母に迷惑をかけられないと、父が黙って一人で肩代わりすることにしていた。しかし、母はその様子にいち早く気付き、詰問したところ吐露したんだそうだ。そこで母も働きに出ることになり、次の年には家も売り払って新しくボロボロの訳あり一軒家に住むことになった。  それから、あたしは下の妹たちの様子を見ながら、家事をこなし、引きこもりニートの兄貴の面倒も見てきた。それに耐えられなくなったのは、中学に上がったころのことだ。それから3年間荒れた生活だったが、まあ…今はガキの反抗期だったなぁと反省してる。  と、いうわけで、あたしもアルバイトを探さなきゃいけない。少しでも家計を抑えなきゃいけないからな。んで、今は英語の授業中に、珍しく真面目に起きて、求人雑誌を見ているところだ。ん~どれがいいかなぁ…せめて時給980円くらいはないと厳しいぞ…お、ここなんかどうだ?…時給1100円だ。あ~…でも応募はもう間近だな。ぜってぇこれはもう手がついてんなぁ…んー… 「小篠…」 「……」 「小篠…っ!」 「……」 「聞こえねえのか?チビ小篠」 「誰がチビだ殺すぞ」 「……」  にんまりと。お手本のように綺麗な弧を描いた口元が見える。さらに上を見ると、飯田センセーの笑っていない瞳と、そのこめかみには青筋が。
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