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困ったなぁ…と小さく呟きながら、頭をガシガシと掻いた。こうなると、妹もとい、歩寧は譲らない。とっても頑固になってしまうので、言うとおりにするしかない。
「はぁ…わかったよ。約束する。それでいいだろ?」
「うん。絶対ね?破ったらただじゃおかないんだから」
ぐぐっと眉を吊り上げて、口元もむっとへの字になる。むすっとしてるのもかわいい…けど、昔ボロボロになって帰ったら、凄い顔をしていたのを思い出す。今にも泣きだしそうで、まるで自分が傷ついたみたいな顔だった。だから、もうそんな顔をさせないように、怪我をしたらなるべく自分で手当てをしたり、隠したりしていた。一番楽なのは、やっぱり怪我がないことだけど。
――――――――そんなやり取りをしていた。途中からは双子の弟妹たちも会話に入ってきて、あたしがいなくなるなんて誤解されかけた。まさに泣き出しかけた双子たちに、今日の夕飯はオムライスだぞ~?なんて言ったらころっと喜びだしたっけな。それで騙されるかと思ったけど、あの子たちもそんなに優しくはなかった。その話で喜んでからも、いなくなるのかどうか質問攻めで説得に苦労した。
というわけで、何とか許された新しい高校への入学初日。あたしは校門前までやって来て、少し立ち止まり、校舎を眺めてみた。割れた窓ガラスはテープで仮補修されて、ヒビの入った校舎の壁に、よく見ると芸術的な文字アートの羅列。目の前のグラウンドでは、風が土埃を舞い踊らせて、哀愁が漂っていた。
普通の女子高生がこんな惨状見たら恐怖で足がすくむどころじゃないだろう。今すぐここから逃げ出して、家に駆けこむに違いない。まあ、あたしはこんなの見るのは慣れているので、どうも思わない。むしろ、ぬるい方だ。スプレーの文字はもっと大々的に描けばいいのに、これ書いたヤツぜってぇ臆病もんだったんだろうな、とか考えながらズンズン玄関に進む。
他の登校者も、わらわら歩いてきていて、まともなやつは一人も見当たらない。モヒカン頭、リーゼント、なぜかダサい特攻服なんかも着ちゃってる奴ら、化粧臭いギャルたち、オタクくんなどなど。まともなのはオタクくんくらいか。話しかけてもほぼ100%で内容分からんので、声かける予定は今のところなし。
昇降口の近くにある、クラス分けの大きな表を見て、自分のクラスを把握。なるほどC組っと…。見た後はそのまま立っている教員の声に従って、体育館に進んでいった。クラス番号順に決められた座席に着いて、少しぼうっとする。腕を組んで、暇だな、何しようとか考えて、何気なく体育館内の様子を眺める。やっぱりちゃんと座ってるやつなんかほとんどいない。しっかりクラス順なのかさえ分からないし、おびえた顔の奴らは必然的に端っこに追いやられているみたいだ。危害加えられなきゃそれでいいわ、とまた前を見据えて式が始まるのを待った。
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