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「ちなみに、武術の心得は?」
「えっと…昔、兄とアクションものの番組見てた!」
「そぉか…」
なんとも微笑ましい情景だ。少し和むなと思いながら、教室の前で立ち止まった。彼女もスティックを仕舞いながら、前を見据えた。その顔はまるで魔王城を前にした、プレイヤーのような緊張感と不安に満ちた面持ち。
ここでずっと立ち止まっているわけにもいかないと思い、あたしは彼女の手を取った。
「いくぞ」
「え…うん」
ガラガラっと教室の引き戸を横に引いて、教室内へ入る。部屋の中はやっぱりさっきと同じ惨状。教卓に置いてあったらしい花瓶は割れ、中の花と水が見るも無残だ。机はぐちゃぐちゃと斜めって並び、椅子が引いてあるのが大半。もちろん椅子じゃなく、机に座っている輩どもだ。女子はと言えば、スマホを弄って、ぺちゃくちゃバカ騒ぎ。
あのヤンキー教師がいないここは、やつらにとって天国なんだろう。特に気にも留めず、黒板に貼ってあった座席順が記された用紙を見る。
「窓際から2列目、後ろの席だな。」
「あ、前後で並んでる…。」
「あぁ。やったな。」
そういいながら、指定の座席へそのまま手を引いて歩いていった。しかし、あたしの席は空いているのに華の席は既に先客がいた。いかにもガラの悪そうな黒髪リーゼント野郎が、椅子に足を乗せ、机に座って我が物顔で陣取っている。周りにはギャルどもがギャハギャハと煩いことこの上ない。
さっきの威勢はどこへ行ったのか、華はすっかりおびえていて、握った手が震えていた。かわいい子だ。こんな純粋で臆病な子を、こんな野獣だらけの中に放ってはおけない。
「おい、お前」
「んだチビ」
「……」
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