優しい手

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「……ずっと隣にいたかったのに」 「だから、なんでそんなこと……」  戸惑う私の唇に、冷えた唇が重なった。  ああ、そっか……キミは、もう―― 「これは私の願望なんだね?」  おぼろげだった記憶が、徐々によみがえってくる。  あの日、こうして私が引き止めていたら。  もし、あの手をつかんでいたら……    キミは生きていたかもしれなかった。  事故に遭うこともなく、あたりまえの明日を迎えて。 「オレの願望でもあるよ」    いつのまにか雑踏は消えて、夜空の中に放り出されたような闇が辺りを包んでいた。 「……うん。でも、もう一度会えたから……願望じゃなくなったね?」 「そうだな……」  手を取り合い、暗闇を歩く。   「どこへ行くの?」 「あそこ」  キミが指差した先には、小さな光が点のように輝いている。 「何があるの?」 「見ればわかるよ」  だんだんと光が大きくなり、近づくとぬくもりを感じられた。 「のぞいてみて」  言われるままに、目をこらす。 「あっ」  まばゆい光の中には、私の家族がいた。 「私の声は届かないの?」  振り向くと、キミは静かに首を振った。 「みんな……」  泣きじゃくる孫たちと、すすり泣く義理の娘と息子。  慟哭(どうこく)する娘、声を押しころして泣く息子。  ――そっか。  私、逝ってしまったんだ。  あの子たちを残して。  
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