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息を引き取った瞬間、彼女の目から最期の涙が流れ落ちた。
人差し指ですくうと、それはまだ温かかった。
もう目を開けることはないなんて……信じられないくらい、優しいぬくもり。
だけど、キミは散り際に別れの言葉を残していった。
『ありがとう』
そう、聞こえた気がした。
懸命に伝えようとしてくれた、優しいキミを見つめる。
――なんて安らかなんだ。
まるで、とても幸せな夢を見ているような。
無垢な少女の寝顔に見える。
「お母さん……お母さん!」
大好きな母親の命が燃えつき、取り乱す娘。
その背中をさすってみても、なんの効果も得られないことはわかっていた。
心構えをしてたって……キミがいなくなった現実を、すぐに受け入れられるはずがない。
ここにいる家族皆が、キミを失い涙に暮れている。
ただ、俺だけは途方に暮れていた。
キミのいない世界で……これからの日々を、どうやって過ごせばいい?
隣で笑うキミを眺めて。
他愛のない話をして、穏やかな時間を過ごして。
手をつないで、一緒に歩く散歩道。
飽きるほど繰り返した日常が、恋しくてたまらない。
幸せだったからこそ、例えようのない苦しみが襲う。
思い出だけで生きられるほど、俺は強くないんだ。
ああ、こんなにも辛いことなんだな?
愛する人を失うということは……
キミは、どれほど苦しんだのだろう?
最愛の“彼”を失ったとき、どれだけ傷ついただろう?
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