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今なら、身にしみてわかる。
キミは必死で、痛みと戦っていたんだね。
俺の胸に飛び込んできたあの日、キミの心はとても不安定だった。
傷を癒やすためには、長い時間が必要で。
あのころのキミは、どうしようもなく脆かった。
俺は、それでもいいと思っていた。
キミの心の中に、彼がいたとしても。
大丈夫だと、嘘をついた。
本当は、自分だけを見てほしかったのに。
俺を好きだと言ってくれた気持ちが、本物だってことはわかっている。
だけど、彼以上の存在になれる自信はなかった。
それでもキミのそばにいたかった。
「さよなら……」
白い肌を滑る澄んだ涙を拭い、俺は彼女から離れた。
家族の泣き声も医師の宣告も、遠くから聞こえてくるようだ。
耳鳴りがする……
ふと、視線を感じた気がして窓の外を見た。
――雨、か。
夕立だろうか、いつのまにか降り出していた大粒の雨に目をこらす。
まさか、キミの涙なんてことはないよな?
「はは……」
センチメンタルすぎて、我ながら笑える。
「……っ」
乾いた笑いは、涙とともに嗚咽へと変わった。
体はここにあるのに、キミが目を覚ますことは、もう――ない。
居場所をなくした心は、どこへ行ってしまうんだろうか。
なあ……彼には、もう会えた?
キミが恋い焦がれた、永遠の少年に。
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