キミを、もう一度

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 生きているうちは、叶わなかったかもしれないけど。  解き放たれた心なら、もしかしたら……  だから、俺の役目はもう終わりにしよう。  ずっと独り占めしてしまったから、彼は待ちくたびれているかもな。  たぶん、キミが思っているよりも。  俺は、幸福だったから。  今度は、彼と幸せになってほしい。  でも、今だけは……  キミを想って泣くことを、許してほしい。 「父さん」  息子が、心配そうな眼差しで俺の目をのぞき込んだ。 「苦しくない?」  自分もクシャクシャの顔で泣いているのに、人の心配をして…… 「……ああ」  呼吸を整え涙を拭く俺に、今度は娘が近づいてきた。 「お、お父さんっ……」  寄りかかるように身を預ける彼女を、しっかりと受け止める。 「大丈夫だよ」    自分に言い聞かせるように、泣きじゃくる娘の背中を撫でる。  気づくと、皆が俺を見ていた。  ――ああ、そうだ。  まだ、おまえたちがいる。  残された時間は、そうないかもしれない。  だけど、キミが、かけがえのない家族を残してくれた。    俺が寂しくないように。  それが、キミの……愛のカタチなんだな?  温かい気配を感じて窓外(そうがい)に目を向ける、と。   キミが、空から見守ってくれているように思えた。  ありがとう……  いつか、俺もそこへ行けたら。  もう一度、抱きしめてもいいかな?                      完
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