優しい手

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 私は、幸せだな……  もう、手は思うように動かないけれど。 『泣かないで』    伝えたい言葉も、唇から出ていく瞬間に消えてしまうけれど……なぜか、心が満たされている。 「いやだよっ……お母さん!」  いつまでたっても甘えん坊で、放っておけない可愛い娘。 「母さん」  我慢するときにギュッと目をつむる、涙もろくて思いやりのある息子。  この子たちの頭を撫でてあげたくても、力が入らなくて腕が上がらない。 「おばあちゃん」 「ばあば!」 「ばあちゃん……」    孫たちの潤んだ目が、私を見つめている。  あなたたちと過ごした時間は、本当に楽しくて。  いつだって、童心に帰ったような気持ちにさせてくれた。 「お義母さんっ」    繊細な息子を支えてくれる、しっかりしたお嫁さん。  義理の娘だけれど、本当の親子になれたと私は思っているわ。 「お義母さん」    勝ち気な娘を包容してくれる、おおらかな旦那さん。  あなたに託せるなら、あの子のことは何も心配いらないわ。  あとのことは、あなたたちに任せていいかしら?  力を合わせて、あの人を支えてあげてほしいの。 「……置いていくなよ?」  私の顔をのぞき込んだあの人――夫が、かたわらで声を震わせた。 『ごめんなさい』  必死に手を伸ばそうとして、ようやく人差し指がピクリと反応してくれた。 「キミがいないと、俺は……」  しわがれた声に、続きは聞き取ることができなかった。  
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