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毎日会っているはずなのに、お母さんと離れるのが名残惜しくなるなんて。
「あ、こんばんは」
外へ出るとキミが立ち止まって、私は彼の背中にぶつかった。
「おお、こんばんは」
「お父さん……おかえりなさい」
「ただいま。お、浴衣似合ってるじゃないか」
後ろから顔を出したら、お父さんは目尻を下げてニコニコと笑んだ。
「ふふっ。ありがとう」
キミと同じことを言うから、なんだか嬉しくなる。
「気をつけて行くんだよ」
「うん」
「はい」
玄関のドアを開けるお父さんを、私はまた後ろ髪を引かれるような気持ちで見つめる。
「お父さん」
「ん?」
ドアが閉まる前に呼び止めたら。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
お父さんは、クシャッとした笑顔で手を振ってくれた。
「行こうか」
「うん」
差し出されたキミの手を、ぎゅっと握りしめる。
「そういえば、ひとりで来たの?」
そして、ふと思い出してキミの横顔を見上げた。
「あー、うん。あいつ、友達とゲームする約束したから行けないってさ」
「えっ……花火、楽しみにしてたんじゃなかったっけ」
一緒に行くはずだった彼の弟は、どうやら心変わりをしたらしい。
「うん。あいつにしては珍しいよな」
「そうだね。寂しいな」
「まあなぁ。でも、たまにはいいんじゃない?」
握った手に力が込められる。
「独り占めできるからね」
いたずらっこのようなキミの微笑みに、胸が高鳴る。
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