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「痛いですっ。頭皮もげるっ」
「もげるわけないでしょ!?ほら、クラーラ動かないで。このリーチェお姉さまが、男を虜にする髪型にしあげてるんだから、大人しくしなさい」
「そうよ。素材は良いんだから、もっとお洒落をしなさい。はい、顎をあげて。ナタリー姉さんがチーク塗ってあげましょうね」
「ん......いや、お洒落なんて必要ないですよー」
頭皮はがっつり引っ張られ、顔にはブラシ。
しかもナタリーの片腕は、逃げようとするクラーラをしっかりと拘束している。
これはもはや拷問だと、クラーラは身を飾る女性の心理が心底理解できなかった。
しかし、美女二人は素材も良ければお洒落スキルも長けている。そして今日はほどほど暇なこともあり、クラーラは二人の暇潰しにされてしまっていたりする。
「お洒落が必要ないなんて、聞きようによっては素材で十分勝負できるっていうことかしら?クラーラちゃん。うん、確かに10代のうちはそれで良いと思う。私だってそうだったから。でもね、20代になってみなさい。お肌の衰えを痛いほど感じるから。そして太陽の日差しを恨めしく思うんだからね」
クラーラの髪をうなじで一纏めにしたリーチェは、ぐいっと力強く引っ張った。
「痛いですっ。無理無理無理っ」
まるで手にしているカプチーノ色の髪が太陽の化身だと思っているかのような力加減に、その持ち主であるクラーラは涙目で訴える。
けれど、リーチェの耳には届かない。
「あーあ、私、男のために髪を結うなんてこと久しくないわー」
「同じく無いわねぇー」
遠い目をして最後の仕上げをするリーチェに同意するようように、ナタリーも同じ表情を浮かべる。
「良いわねぇー。クラーラちゃんは、これからイケメンとデートなんだもん」
「デートじゃないですよ」
食い気味に否定してみたけれど、イケメンという言葉は否定しない。
そうすれば、先輩研究員は顔を見合わせてニヤリと笑う。
「ふふっ。じゃあ、私たちはデートでもしよっかな?新しいイケメン室長さんと」
「......はぁ、どうぞ」
まさかこの会話の流れでヴァルラムが登場するとは思いもよらなかったクラーラは、ぶっきらぼうな返事をしてしまう。
「あら?良いの?」
「良いっすよ」
「へー。食べちゃっても?」
「は?」
頭からむしゃむしゃとヴァルラムを食す先輩研究員を頭に浮かべて、クラーラは絵に描いたような阿呆な顔をした。
「……髪をむしるわけでもなく、匂いを嗅ぐでもなく……食べるんですか?」
「そう。食べちゃうの」
「……はぁ」
意味ありげな視線を鏡越しの自分に送るナタリーはとても魅力的ではあるが、言っている意味はてんでわからない。
「お昼足りなかったですか?あの……良かったら、食堂に行って何か作って貰いますが……」
今日のランチは定番のサンドウィッチだった。
食堂のシェフは奮発して野菜のチーズ焼きとビシソワーズも追加してくれた。しかも二人はスープをお代わりしていたから、足りないことは無いはずだ。
そのはずだが、霊長類を食べたいと言っているのだからよほどお腹が空いているのだろう。……と、思ったけれど
「あははっはははは」
「ふふっ、あはっ、駄目っ。お腹痛いっ」
なぜかわからないけれど、リーチェとナタリーは同時に爆笑した。
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