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3.流れ星に願うのは
洗い終わったビーカーと試験管を棚に戻す。
テーブルに散らばっている書類を分別して、所定の位置に戻す。
ポットに淹れておいたお茶の残量を確認して、その隣にある木皿にチョコレートを補充する。
「…… 他にやることは」
キョロキョロと研究室を見渡しているクラーラに、樹皮とにらめっこしていたサリダンがちらりと視線を向ける。
「今日は俺らもそろそろ終わるから。クラーラはもう上がって良いぞ」
「え?そうなんですか?」
資料の棚をなんとなく整理し始めたクラーラは、目を丸くした。
ナンテンやナラと同じ夜行性と言っては失礼だが、ここの研究員達は朝はめっぽう弱くて、日が暮れてからやる気を出す。
今はようやっと夜本番といった頃。
夏は陽が長いので、実際のところ既に夕餉の時間をとうに過ぎてはいるが、それでも普段ならこれからといった時間帯であった。
そんな気持ちはしっかり顔に出ていたのだろう、同じくテーブルで資料を読んでいたローガが補足をする。
「実はこの前、香木をボタンにした寝間着を作っただろ?あの試作品が気に入られて、手付金と一緒に良い酒が手に入ったんだ」
「あ、そうなんですか!?おめでとうございます!」
ぱぁっと笑顔になったクラーラは尊敬の眼差しで、ローガに頭を下げた。次いで、リーチェにも。
木綿事件のあと、しばらくリーチェとローガは個人の研究室に籠りっきりだった。
あれから一ヶ月。
通常、商会から依頼を受けて契約に至るまで、少なくとも3ヶ月はかかる。なのに、もう商品化されるなんて、ものすごい早さだ。さすがとしか言いようがない。
ただもう一度、女性用の寝間着を身に付けたローガを見たかったとクラーラはほんのちょっとだけ悔やんでしまった。もちろん口には出さないし、出せない。
「たまには、一緒にどうだ?」
くいっとグラスを傾ける仕草をするサリダンに、クラーラは笑って首を横に振る。
ランドカスタ国では男女共にに18歳で成人だ。
だからクラーラは、年齢的には飲酒は認められている。
しかし、残念ながら飲酒に向かない体質のせいで、一口飲んだらほろ酔いはショートカットされ、グラグラ世界が回ってしまうのだ。
「是非ともそうしたいのはやまやまですが……またリーチェさんとナタリーさんに、お部屋まで運んでもらうのは申し訳ないので、今日はこれで失礼します」
はははっと乾いた笑いを浮かべつつ、クラーラは白衣を脱ぐことで辞退することを示した。
ただ女子宿舎に戻る前に、食堂に寄ってチーズをくすねて来た自分は、大変良くできた助手だと自画自賛したりもした。
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