スザンヌはただ愛されたい

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 *** ――星子さんって、なんでいっつも怒ってるんだろうな。にっこりすれば、男どころか女だって落ちそうなもんなのに。  俺はいつも疑問で仕方ない。教室で授業をしながら、じっと彼女の背中を見つめる。他の女子どころか、一部男子よりも長身な彼女はどこにいても目立っていた。ぴんと伸びた背筋、風に揺れる艶やかな黒髪。後ろから見ただけでも十分に美しい。きっと毎日手入れしてるんだろうな、シャンプー大変そう、なんてちょっと場違いなことを思ってしまう俺である。  近寄りがたい女王様キャラ、人のことを理不尽に罵倒することも多々、いつも怒ってばかりでちっとも笑わない。そんな彼女に苦手意識を持つ生徒もいるはずだったが、不思議なことにそんな彼女のことを好ましく思う同級生は少なくないようだった。というのも、校舎裏に呼び出されて告白される、なんてテンプレートを見かけたことが、過去何度もあるからである。まあ、そういう時は基本、相手の差し出してきた手紙をその場でビリビリ破かれるところまでがセットなのだが。 『ナメてんの?誰があんたみたいな地味男と付き合うもんですか。目障りだわ、消えて』 『そ、そんなところもかっこいいです……!ぜ、絶対に星子さんを振り向かせてみせます!』  いや、だからなんでそうなるの、というところも含めて。  不思議なことに彼女の周囲には、罵倒されても蹴られても拒絶されても彼女に憧憬の念を抱く者が集まる傾向にあるらしい。本人は本気で嫌がっているようで、今のところあれだけ美人なのに男の影は一切ないのだが。 ――もうちょい愛想良くするだけで、全然周りも対応も変わるってのに、何でだろうな。それも嫌だとか?それとも、なんか理由があるからなのか?  俺がそんな疑問を持つ理由は単純に、彼女が本気で望んで周囲につっけんどんな態度を取っているわけではないと考えるから。そしてその根拠があるからだ。  現在高校二年生の俺が、彼女を知ったのは、去年の夏のこと。彼女はその時にはもうある種学校の有名人であったが、実際にちゃんと姿を見たのはその時が初めてだったのである。  帰宅部という悠々自適な身分の俺は、いつも適当に学校の周囲を散歩して帰ることが多い。桜の並木道、紅葉の並木道、ツツジの並木道などなど。この学校の周囲には、花が咲く道が多く、季節によって様々な草花を楽しむことができる。昔から花が好きな俺は、それらを写真で撮ってSNSにアップロードするのをひそかな楽しみとしていた。花が好きなのに園芸部に入らないのは、育てるのが好きなのではなく観賞するのが好きだからである。園芸部の花壇にもお邪魔してよく写真を撮らせて貰っている。その日も花壇を好きなだけ観察させてもらって、さあ裏門から帰るかと思っていたのだった。
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