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彼女がしょっちゅう呼び出されている校舎裏。しかしそれが、いつものように甘い空気でないことは明白だった。
「……佐伯。言いたいことがあるならはっきり言えば」
イライラしているようにも、焦っているようにも見える。こんなに余裕のない星子を見るのは初めてだった。
「回りくどいの苦手だからストレートに言うわ。藤宮。なんでお前、いっつも怒ってんの」
「は?」
「俺、お前が笑ったところ見たことがねーんだよな。多分他の奴もだろ。いっつも誰かに対して怒ってる。酷いと罵倒してる。それでお前のことカッコイイ!とか崇拝してる連中もアレだけどさ」
本当に短気で、冷酷で、女王サマな性格だというのならそれも仕方ない。でも、あの日いじめっ子からたった一人の見知らぬ少女を助けた彼女は――あれこそが彼女の本質だというのなら。普段見せた顔とは、あまりにも一致しないのである。まるで、日常では常に仮面をかぶって本当の自分を隠しているかのようではないか。
「お前、みんなに嫌われたいのか。嫌われたい理由があるのか」
そうだとしても、と俺は続ける。
「人に嫌われるためなら人を傷つけていいなんて、そんな理屈はないだろ。誰かが好きなものに唾を吐くような物言いなんて論外だ。ラノベのことだけ言ってんじゃない。お前の言動、最近ちょっと目に余るぞ」
きつい言い方をしているのはわかる。けれど、このままではいけないと思っていたのも事実だ。何か理由があるなら、それが解決できることならそうしたほうがいい。所詮ただのクラスメートでしかない以上、お節介と言われても仕方ないけれど。
「……あんたには、絶対わかんないわ」
やがて。低く唸るような声で、星子は言った。
「トラックにぶつかって、異世界に飛ばされて、メガミサマに愛されてチート無双!そんな作品へらへら楽しんでるようなあんたなんかに、私の気持ちはわからない!」
「“エンゼル・ライド”のこと言ってんのか?確かにあれも異世界転生だしチートもするけど、主人公の能力がきかない展開もあるし努力するシーンもある。キャラ同士の成長や友情もあって凄い良くできた作品なんだぞ。ろくに読みもしないくせに、全否定はないだろ」
「アレがどんないい作品かなんて関係ないの。チート転生なんてもの、夢見てる奴にロクな奴なんかいないわ。私がそうだったみたいにね!」
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