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彼女が嫌っていたのは、ライトノベルではなく“チート転生”という趣向であったということらしい。そこまではわかったが。
――私がそうだったみたいに?……どういうことだ。
「どういう意味だよ」
多分、本人も口を滑らせたというやつなのだろう。明らかに動揺した様子で彼女は視線を泳がせ――やがて、観念したように告げた。
「……チート能力なんかろくなもんじゃない。結局本人も周りも不幸にするだけ」
「何でそう言い切れるんだ」
「決まってる。私がそうだからよ」
どうせ信じないでしょうけど、と。星子は前置きして、こう告げたのか。
「馬鹿な女の妄想だと思って聞けばいいわ。……私も、いわゆる転生者ってやつなの。……信じないでしょ。信じないわよね。別の世界で列車に轢かれて死んだら、神様の力でこの世界に転生したってやつ。しかもチート能力も若さも美貌も貰ってね。……あんたらにとっては退屈な世界かもしれないけど、私にとってはこの地球の日本は天国のようだったわ。だって、モンスターもいなければ戦争もないんだもの」
彼女は校舎の壁に背中を預け、どこか遠い目をした。遠い遠い、世界の向こうのそのまた向こうにある故郷に想いを馳せるように。
「最初は楽しかったわよ、だって私の“男にも女にも当たり前のように愛される”チート能力で、どこにいっても苦労しなかったんだもの。……でも、段々空しくなった。みんなが私のことを好きだ、愛してるって言う。でもそれは私に魅力があるからじゃなくて、能力のせいで勝手にメロメロになってるだけ。本当に私を愛してくれている人なんか、この世界のどこにもいない……そう思ったら、何もかも怖くなっちゃって。何も、信じられなくなっちゃって」
星子は言った。
痴漢に遭いそうになったら、誰かが必ず助けてくれる。
不良に絡まれそうになったら、通行人が怪我をしてでも絶対自分を助けてくれる。
毎日のように、誰かからラブレターやメールで愛を伝えてくる。
自分が学校で、イベントで何かを提案すると、当たり前のように賛同する者が現れる。その提案の内容ではなく、ただ“あの星子が提案したから”というだけで賞賛される――。
「誰からも当たり前のように愛される美女になりたい、なんて。願わなければ良かった。これがそんな恐ろしい力だなんて知らなかった。だってこれは、人の心を無理やり上書きして操ってしまう、恐ろしい力なんだもの。誰も幸せになれなかった……私自身でさえ」
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