前世がネジだった男

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 どうせまだ寝ているのだろうと思ったら、案の定ネジは寝ていた。  鍵を抉じ開け、叩き起こして準備をさせる。  こんなネジ穴の潰れたような男を、わざわざ早朝からお迎えに来てくれる可愛い幼馴染の存在に、ネジは深く感謝して欲しい。  昨晩二人で飲んでいた時と同じ服を着始めたので、シャツだけでも着替えさせた。今日は実技の試験はないが、自動車免許を取りに行くのにアルコールの匂いをさせていくのは、印象が悪い気がする。  ネジとは幼馴染の腐れ縁で、秘密の共有者だった。  秘密と言うのは、ネジの前世がネジだという話。何故秘密なのかと言えば、初めて秘密を明かされた三歳当時の私が、ネジを散々笑ったからだ。ネジは怒りもせず、むしろその対応に納得し、それから前世の話を誰にもしなくなった。  私は二人切りの時だけ、彼をネジと呼ぶようになった。 「今日合格したら、僕も遂にドライバーだぜ」  ネジなのにドライバー。それを言いたいがためだけに、こいつは普通自動車免許を取得しようとし、私はそれに付き合わされていた。 「合格してから言いなさいよ」 「合格したらもう一回言うよ」  長い付き合いなので、私と彼が話を打ち切るタイミングは大抵同時だ。  そこからは無言で駅に向かい、電車に乗ったら二人共試験直前の詰め込み勉強に入る。  朝食を抜いたネジにアルミパックのゼリー飲料を渡すと、ネジは殊勝にネジ山を下げた。  最寄駅からはバスに乗る。運転免許試験場は電車に対して妙な対抗意識を持っているのか、駅から歩いて行ける距離にはない。  時間は予定通り。バス停には似たようなアンチョコを持った人も並んでいたので、ここで間違いないはずだ。 「さて」  と二人が同時に激励を交わそうとした時、不意に空が暗くなった。  顔を見合わせた後、同時に空を見上げる。  巨大なドライバー……運転手ではなく、ネジ回しが、ネジの頭を目掛けて落ちてきた。
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