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違和感
私の家は奇妙だ。どこか異様で、でも誰も『それ』をおかしいと思わない。疑わない。両親、親戚、近所の人、友達。誰一人……
まるで……私が一人、取り残されているように。
私の家族は三人。母、父、私だ。愛犬と猫を入れると……おおごとになるので置いておこう。私の家はごく普通の一軒家。何処にでもあるような普通の家だ。別に文句を言っている訳ではない。それは本当だ。
でも……だからこそ怖い。
何もないはずなのに……この家は、どうしようもないぐらい『違和感』に溢れているから。
そして……それを『私だけ』しか感じていないことに……なおさら。
私が、違和感に気づいたのは物心ついてすぐだった。私の家には母、父、私……以外に『誰か』が居た痕跡があった。
歯ブラシ、お茶碗、椅子、お弁当箱……私以外の子供が使っていたようなものの数々。そして、それは私の物より多かった。それがすごく……不思議だったのだ。
そして……一番は、私の隣の部屋。男の子らしい人の部屋。ずっと使われていたかのような生活感のある部屋。
私は母に聞いた。
「ねぇ、お母さん。ここは誰のお部屋?」
母は困った顔をして言った。
「……誰のなのかしらね。お母さんも分からないの。でもね、片付けようとしても、何故か手が止まって。ダメなのよ。片付けてはいけない気がして。」
「ふーん。変なの」
私はまだ、考えがおよばない子供だったから。それぐらいしか思わなかった。
そして、二つ目の違和感。
夏祭りの日である。私は母と、近所の神社に来ていた。可愛い浴衣を着ておしゃれをして。
「お母さん!早く行こう!」
母の手を引いて、無邪気に走った。
「ちょっと、お母さんそんなに走れないわ。」
「何で?前は一緒に走ったよ!」
その時、お母さんは不思議な顔をした。
「去年?かしら……お母さん、去年は行ってないわよ?あら……でも、それじゃあ、あなた誰と行ったのかしら。」
「ん?」
「何でもないわ。早く行こうね。」
「うん!」
今思えば、おかしい話である。おじいちゃんは早くに亡くなって、おばあちゃんは腰が悪いから……夏祭りになんて行くはずない。お父さんは遠くに仕事に行っていて家にいなかった。お母さんは体調をくずしていた。
じゃあ、私は誰と行ったの?
私の記憶に微かに残る面影。それを私は『家族』だと認識していた。それも大人ではなく……子供だ。あの子は誰?
おかしいはずなのに、誰も疑わない。誰も気にしない。それが当たり前になっている。
でも、なら何故……私はそうじゃないんだろう。みんなみたいに『分からない』で終われたらよかったのに。
怖いよ……私が一人取り残されているようで。
ねぇ……私は『誰』を探しているの?
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