2.ご褒美をくれると言ったくせに

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 むしろ、ゆっくりと右肩下がりなのが、美冬には気にかかっていた。  祖父は今も元気で健在であり、経営権は一切手放してはいないので、美冬はいわゆる雇われ社長という立場である。  地元の経済界ではある程度顔が利き、会長職に引いたとはいえ社内でも絶大に影響力のある祖父だ。  そんな祖父の入院……!? 『あの……ですね美冬さん……』  受話器の向こうから伝えづらそうな祖父の秘書の声がした。  美冬は一瞬覚悟を決める。 『それが……大変いいづらいのですが……』  ごくり、と自分の喉の鳴る音が聞こえた。 (もしかして……命に関わるようなとんでもないことが……) 『その、骨折……でして』  その後に続いた秘書の言葉を聞いてあやうく美冬はスマートフォンをぶん投げそうになったものである。 「骨折ぅ!? うん、まあ命にかかわることではないのかしら?」 『ええ、全く。ただ、その状況が……』  取引先とゴルフに行った際に、OBになったボールを取りに行こうとして斜面から転落し、骨折したのだという。  しかも周りが散々止めたにも関わらず藪の中に入って行ったというのだから、美冬としてはあきれるしかないし、一緒に行ったメンバーに本当に申し訳なさ過ぎる。  あまりと言えばあまりな状況に美冬は震えが来そうだ。 「お客様は?」 『苦笑でいらっしゃいました』  椿さんですからねえ、とみんな笑ってくれたらしい。  気分を害された人はいなかったと聞いて安心した美冬だ。
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