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本当は折菓子の一つでも用意してお礼を伝えるのが筋だが、あいにく手元には何もない。
だからといって折菓子を用意するためにお礼を後日にするのは本末転倒。
折菓子こそ後日だ。
今日は一言お礼を伝えないと。
「今日は残業になったらしくて。何時になるかは分からないけど、十九時までには来られると思うから。よければ中にどうぞ。」
先生にそう促され、オレは教室の中へ。
子供の高さに合わせた棚に、所々に置かれているテーブルにイス。
……何もかも小さいな。
オレが大きいせいか?
まるで小人の国に迷い込んだみたいだな。
「いつもここで待っていてくれるんです。子供たちがおままごとをしている場所なんですけど、おままごとが好きな子たちは帰ってますから、どうぞゆっくりしてくださいね。」
そう案内されたのは教室の隅…カーペットの上に小さな丸いちゃぶ台が置かれてあるスペース。
ちゃぶ台の周りにはおもちゃのコンロや食器、ぬいぐるみ等々のおままごとに使えそうなものがかごに入れられ整理整頓されている。
……本当に何もかも小さいな。
小さな棚で、この場所と教室を別の空間のように区切ってくれているので、ちょっとした小人の部屋にお邪魔している気分だ。
今は身長百九十センチを少し超えるデカブツだが、昔はこの教室の中にいても違和感のない子供時代がオレにもあったな…。
全てが小さいこの部屋にいると、そんなことを思ってしまう。
……それよりも……
ここで、どんな人が待っていてくれたのだろう?
子供のお願いに……悪い言い方をすれば『わがまま』に一ヶ月も付き合っている人。
……きっと、優しいいい人なんだろうな。
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