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隆とみぃちゃんを家まで送り、それぞれの両親に引き渡した後、オレはよく訪れるカラオケボックスへ。
どこのカラオケボックスもだいたい同じような造りだが、今回入ったのは少人数向けの小さめの個室。
三畳ぐらいの広さか?
大きなモニターに、壁に沿うように設置されているソファー。
モニターが正面になるよう並んで座ったオレと千晶。
その距離、約二十センチ程。
薄暗い手狭な空間。
すぐそこには好きな女…。
……むむむ……
不謹慎かもしれないが、下心しか湧き上がってこない。
一緒に過ごせることだけで満足なはずなのに……
身体をもっと寄せたい。
手を繋ぎたい。
肩に手を……いや、腰に回したい。
髪に触りたい。
…………抱きしめたい。
その辺の普通の女なら、遠慮なく体を寄せ、腰を引き寄せ、甘い言葉をちょっと口にしただけで勝手にその気になってくれる。
いいなと思って、ちょっとしたきっかけさえ与えれば、簡単に手に入っていたから、女を落とすなんて簡単なことだと思っていた。
千晶の苦手を克服させることなんて、その気にさせればちょろいと思っていたんだ。
……あの怯えきった千晶を見るまでは。
……本当に欲しいと思うものは、なかなか手に入らない。
だから、下心は隠して、一緒に過ごす時間を増やしていく。
千晶のことを知って、オレのことを知ってもらうために。
……得意な歌でオレの気持ちが少しでも伝われと、オレはラブソングを中心に熱唱していく。
「野村さん、歌うの上手ですね。」
なんて感心するように言ってくれるが……
好きな人にほめられるのは、それはそれでうれしいのだが……
気がついて欲しいのは、そこじゃないんだ。
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