五章 シフォンケーキの味は

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 翌日、午前中の講義が終わると、私と神名君は二人連れだってキャンパスを出た。 途中、スーパーでお菓子作りの材料を購入し、市バスに乗る。膨らんだビニール袋は神名君が持ってくれたので、私はトートバッグ以外は手ぶらだ。  途中で地下鉄東西線に乗り換え、蹴上駅まで行くと、もう覚えてしまった道を辿り、『時雨心霊相談所』へと向かった。 「遥臣さーん、来たよー」  勝手知ったる人の家、とばかりに、神名君が玄関扉を開けて、町家の中へと入っていく。私は「お邪魔します」と言いながらその後についていった。町家の中は、誰もいないかのように、しんと静まりかえっている。格子の窓から光が差し込み、店の間に美しい陰影を作り出している。靴を脱ぎ、私も勝手に家に上がった。 「遥臣さん、またこんなところで寝て」  座敷のほうから、神名君の呆れた声が聞こえてきた。ダイドコを通り抜け、座敷へ行くと、時雨さんが縁側に寝転がっていた。すぅすぅと寝息を立てている。京町家が夏向きの造りで涼しいとはいえ、こんなに日の当たる場所で寝ていたら暑いのではないだろうか。それに、紫外線が肌にも悪そうだ。  時雨さんは、穏やかな顔をして眠っている。人形のような美しい寝顔に、私は一瞬見とれた。
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