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フォークで一口サイズに切り分けている私の隣で、早々に手づかみでケーキを口に入れた神名君が、
「うわっ、うまっ! マジ、うまっ!」
と声を上げた。
「ホント?」
「めちゃめちゃうまい! これ、売れるって! 木崎さん、お菓子作るの上手だね!」
手放しで褒められ、くすぐったい気持ちになる。時雨さんの反応はどうなのだろうと思って、そっと様子をうかがってみると、フォークに刺したシフォンケーキを口に入れたところだった。ゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ後、動きが止まる。
もしかして、口に合わなかった?
ドキドキしていたら、時雨さんの視線がこちらを向いた。
「……おいしくなかったですか?」
無表情、無感情。きっと、味なんて気にしていない。
悔しい気持ちで、けんか腰で問いかけたら、時雨さんはびっくりしたように目を丸くした。その反応に、私のほうも驚いてしまった。
時雨さんはすぐに、いつも通り淡々とした表情に戻ってしまったが、引き続きケーキを食べ、皿を空にすると、私に向かって差し出した。
「……?」
「おかわりはないん?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「遥臣さん、木崎さんのケーキ気に入ったんですか? 食に無頓着なのにめずらしいですね」
神名君の笑顔で、ようやく私は、彼が私のケーキをおいしいと思ってくれたのだということに気がついた。
「あっ、ありますっ! まだまだ、あります!」
時雨さんから皿を受け取り、急いで台所へと向かう。
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