五章 シフォンケーキの味は

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 残っていたシフォンケーキを切り分けていると、 「木崎さん、ありがとね」  背後から、神名君に声をかけられた。振り返ると、いつの間にか、神名君がダイドコに立っていて、土間にいる私を優しいまなざしで見下ろしていた。 「ありがとうって?」  なぜお礼を言われたのか分からず、首を傾げたら、 「こないだ、遥臣さんに感情がないって話をしただろ? だからなのか、遥臣さんは、食べることにも執着がないんだ。たぶん、おいしいとか、何が食べたいとか、そういうことを考えないんだと思う。――おかわりが食べたいなんて言うの、とてもとてもめずらしいことなんだよ」  と、教えてくれた。 「おいしい」が分からないなんて……。   神名君の話を聞き、切ない気持ちで、胸がぎゅっと痛くなった。 「ねえ、木崎さん。良かったら、またここに来て、遥臣さんのためにケーキを焼いてあげてくれないかな?」  そうしたら、いつか遥臣さんにも感情が戻る時が来るかもしれないから――。  神名君の願いが聞こえた気がして、私は微笑みながら「うん」と頷いた。 【了】 
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