クエスト

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クエスト

「あ、あのさリュウ・・・・・・」  僕がリュウに話しかけようとしたところで、リビングの扉が思い切り開いた。 「勇者どの!!お待たせ致しました」  見れば、さっき出ていった杖をついた老人の他に、もう一人老人がいた。ステータスボードの内容を信じるならば、僕が勇者ということでいいのだろうか。  老人達の様子を見る限り、ステータスボードは、僕達以外には見えていないようだった。 「失礼。私は、この村の長老をしているものです。今日は、お願いがあって参りました」 「はい?」  村長の他に長老?よく分からない。会社で言う『社長』と『会長』みたいなものだろうか? 「レイ、きっとクエストだよ。受けて」 「あ・・・・・・うん」  何が何だか分からなかったが、長老達に向き直ると気になっていた事を聞いてみた。 「村長と、そっちが長老で・・・・・・どっちが偉いんですか?」 「長老は村長が引退した時になる、いわば『お目付け役』です。権限などは、村長である私に全てあります」 「そうですか。それで、お願いって何なんですか?」  半ばやけくそになりながら、村長に話を聞いてみた。 「実は近くの森で、魔物が発生しておりまして・・・・・・村の者が被害を受けております。どうか勇者様のお力で退治していただけないでしょうか?」 「え?」  魔物退治?あまりに唐突だ。しかも、武器も持っていない。 「あのっ、僕達は今日ここへ来たばっかりで・・・・・・リュウとも話し合わなければならないので・・・直ぐには決められないって言うか・・・・・・」  正直、夢じゃないなら逃げ出したい。なんと言っていいか分からずに僕がそう言うと、断られることすら考えてもいなかった村長達は、二人とも泣きながら鼻水をたらして懇願してきた。なんだか汚い。 「ゆ、勇者どの。そこを何とか・・・・・・」 「いや、別に僕は勇者とかじゃないんで。たいしたことは何も出来ないっていうか・・・・・・」  僕がそんな風に言うと、「そんなご謙遜を」とか「そこを何とか」と言って、話にならなかった。  僕は『暖簾に腕押しとはこのことか』と訳の分からないことを考えていた。 「レイ・・・・・・」  リュウが僕の腕を引いているので、振り返ると上目遣いで『受けてあげて』と目が訴えていた。そんな顔をされたら受けるより他にないだろう。 「分かりました。出来るかどうか分かりませんが、お引き受け致します」  僕がそう言うと、村長と長老は泣きながら喜んでいた。  僕達は夕飯を御馳走になった後、お手伝いさんらしき男性に2階の客室を案内された。  ドアを開けると、20畳はある広さの部屋にダブルベッドとにテーブルとソファー、それから、村長の趣味かと思われる絵画が壁に掛けられており、棚には個性的な置物が置かれていた。
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