異世界転生

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異世界転生

『目を覚ますと、そこは森だった』  冗談でも何でもなくて、目を覚ましたら森でだった。夢を見ているのかと思った。  僕は、どうしてこんな所にいるのだろう?朝、学校へ行く前にバイト先へ寄って、大学へ向かったはずだが・・・・・・そこから先が思い出せない。  身体を起こして、辺りを見渡す。頭が痛い・・・・・・一体何があったのかと、頭を振りながら思い出そうとするが、ぼんやりとしていて思い出せない。  気づけば、近くにマントを着た青年らしき人が倒れていた。 (寝ているみたいだ。一体、どうしたのだろう?) 「あの・・・・・・」 「ん?」  近くに行って声を掛けると、青年が目を覚ます。寝ぼけ(まなこ)で身体を起こした彼は僕を見て驚くと警戒して身構えた。  銀髪にグレーの瞳・・・ゲームに出てきそうな『イケメン』だった。 「誰だ? それに、その格好はなんだ? コスプレか?」 「コスプレ?」  自分の服を見れば、確かにおかしな格好をしていた。中世ヨーロッパの騎士の様な服を着ている。そもそも中世ヨーロッパの服がどんな服か具体的には分からないが。 「コスプレをした覚えは無いんだが・・・・・・分からないんだ。何も覚えていない。気がついたら、ここにいたんだ」 「日本語が話せるのか?」 「何を言っているんだ? 僕は、日本人・・・・・・」  そう言いかけて、『なにかが、おかしい』と思った。 「おい、待てよ・・・・・・」  僕は闇雲に森の中を走り、丘を下って川べりの近くに座った。さっきの青年が何故か後を追いかけてくる。  川辺から川の中を覗き、込み自分の顔を見た瞬間、僕は驚きすぎて息を止めていた。 金髪にグリーンの瞳。 「誰だ? これは」  後ろから追いかけてきた青年は、しばらく近くにいたが、何か思うところがあったのか、自分から川の中を覗いていた。 「誰だ? これは。夢か? 夢だよな・・・・・・」  隣を見れば、自分で自分の頬をつねっている銀髪の青年がいた。 「え? もしかして、君も日本人だったりする?」  青年は自分でつねった頬が痛かったのか、頬を押さえながら涙目で答えていた。 「うん、日本人だよ。俺は神崎リュウ」  どっからどうみても外国人にしか見えない彼は、そう答えた。 「僕は、桐ヶ谷レイ。日本人で、21才の大学生だ」 「俺も大学生。21ってことは同い年かぁ」  僕たちは、川の近くにあった丸太に腰かけ話をした。 「それにしても、ここは何処なんだろう?」 「この格好に、外国の知らない人の顔ってだけでもビックリだよ・・・・・・もうこれ以上、何かあっても困るよ」  リュウはテンパっているのか、自分の髪をグシャグシャと、かき乱していた。今にも泣き出しそうだ。 「レイって呼んでもいい? ここへ来る前に何があったか、覚えてる?」 「いいよ。ここへ来る前? 僕は大学に向かっていたと思う・・・・・・リュウは?」 「俺も大学にいた。聖池大学」 「聖池大学? 僕と同じ・・・・・・大学で何をしてた?」 「何って、講義を受けに・・・・・・そう言えば、1限目が急に休講になって、構内にある神社みたいな場所に、行ってたかな」 「神社?」 「大学の敷地内にあるんだ。端っこの裏庭みたいになってるところ。前から気になってて・・・・・・暇だったから見に行ったんだ」 「それで?」 「そこまでの記憶しかないんだ。目眩がして・・・・・・たぶん来た道を戻ろうとして、倒れたんだと思う」 「そうか」  ああ、そうだ。僕も学校に行こうとして、向かっている途中に大学の近くで意識を失ったんだっけ。 「神崎くん、たぶん・・・・・・僕も学校の近くで、意識を失って倒れたんだと思う。それで、これが夢じゃないなら『異世界転生』じゃないかと思うんだけど」 「異世界転生?! あの、ライトノベルとか、ライトノベルとか、ライトノベルによくあるやつ!!」  神崎くんは混乱したのか、『ライトノベル』と3回も連呼していた。 「そうなんじゃないかと思う。だって作り物じゃない、銀髪に金髪でしょ? 夢じゃないなら、そう考える方が自然だと思う」  僕は彼と自分の髪を、交互に指差しながら言った。 「そうなのか?よく分からないな」  神崎くんは、ブツブツと独り言を言っていた。僕だって分からない。普通、異世界転生だったら女神様とか神様が出てくるのが定番で・・・・・・いきなり転生とか何?まったく意味が分からない。 「ここが何処か確かめる必要があると思う。日が暮れる前に移動しよう」 「そうだな。俺のことはリュウって、呼んでくれ、レイ」 「分かったよ、リュウ」  見渡す限り木と草で何もない場所だった。確かに早めに移動しないと、野宿になってしまいそうだ・・・危険な場所なのか、分からないのに野宿は危険だろう。 「レイ、あっちに行ってみない?」 「なんで? 森が広がってるけど?」  リュウが指を指した先には、かなりの森が広がっていた。 「勘だけど、向こうに行った方がいいと思う」 「そう。僕には森が広がっているだけにしか見えないけれど・・・・・・」 「ごめん。上手く説明出来ないけど」  リュウが言うなら、向こうへ行ってみようか・・・・・・どうせ、宛のない旅だ。少しくらい、ゆっくり進んでも、いいのかもしれない。そんな気持ちになっていた。 「分かった」  その後、2人で少し先にある森へと向かったのだった。
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