おかごさま。

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「こ、ここ……どこ?」  おかしい。  僕は、アパートになんか住んでない。駅からちょっと離れたところにある一戸建てに住んでる。  おかしい。  僕は、お母さんと二人暮らしじゃない。お父さんお母さんと姉ちゃんと僕の四人暮らしだ。  おかしい。  僕は。――僕のお母さんは。あんな、赤い目なんかしていたはずがない。 ――待って。待って。……どこから、どこまでが……本当の、こと?  ドンドン!と再びドアが強く叩かれた。びくり、と体を震わせて玄関を見る僕。聞こえてきたのは、一番最初に聞こえた女の人の声だ。 『たっくん、お願い!お願い、此処を開けて。迎えにきたの、お願い!!』  その声に。僕は泣きたい気持ちでいっぱいになりながら、叫んだのだ。 「お母さん!!」  それは、まぎれもない僕の“本当の”お母さんの声だった。何でわからなかったのだろう。  玄関に飛びついて開いた瞬間、耳元で声が聞こえた。そう、僕が“お母さん”だと思い込んでいた、赤い目の女の人の声が。 『あと少しだったのに』  玄関のドアを開けた途端、僕ははっとして目を覚ました。病院のベッドの上。僕の手を握って、お母さんが大泣きしていた。どうやらずっと僕の名前を呼び続けていてくれたらしい。そのほかにもお父さんに、お祖父ちゃんにお祖母ちゃん、お姉ちゃんやクラスの友達。みんながかわるがわる病室に来て、眠ったままの僕に呼びかけ続けてくれていたというのだ。  おかごさま。  あの女の人が語った昔話と、僕とケンちゃんが開けてはいけない祠を開けたことまでは事実だった。ただし、ケンちゃんは今も眠ったまま目を覚まさず、ひょっとしたら一生そのままかもしれないとお医者さんは言ったのだそうだ。 「良かった……本当に良かった、たっくん。貴方が起きてくれて、本当に良かった……!」 「ごめんなさい……ごめんなさい、お母さん……!」  僕の手を握る、お母さんの手には。お守りが一緒に、しっかりと握られていた。多分その力もあって、僕は本当の記憶を取り戻すことができたのだろう。  もしあのまま、僕が“おかごさま”をお母さんと思い込んでいたら。  本当のお母さんのお迎えを、あのまま拒んでいたら。そのまま夜を迎えていたら、一体どうなってしまっていたのか。  今となっては、想像することさえ恐ろしい。
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