おかごさま。

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おかごさま。

 これは、僕が小学生の時に本当にあったお話。  ある朝目が覚めると、お母さんがとても怖い顔をして僕の顔を覗きこんでいた。今ままで見たことのないような、言うなれば鬼のような形相だとでも言えばいいのか。 「ど、どうしたのお母さん」  僕は布団の上であおむけに転がったまま、きょとんとしてお母さんに尋ねる。するとお母さんは心底ほっとしたような顔で、“良かった”と息を吐いたのだ。 「なんだか、たっくんがもう目を覚まさないような気がして心配になっちゃって。……良かった。ひとまずは大丈夫だったみたいね」 「大丈夫って、何が?」 「覚えてないの?大騒ぎだったのよ、貴方とんでもないことしてくれたでしょ」  どうやらお母さんの険しい顔は、心配していたのと怒っていたのと半々だったということらしい。お母さんにぽつぽつと語られて、僕は昨日あった出来事を思い出したのだった。そうだ、僕はクラスメートのケンちゃんたちと一緒に裏山に探検に行ったのだ。ちなみに、小学校の頃に僕達が住んでいた場所は、田舎と言えば田舎だけど“ド”がつくほどの田舎ではない、といったところだった。  具体的には、田んぼだらけであっちこっちに森があって住所が“村”とかで――みたいなほどではないが、駅前にちょろっとコンビニや本屋、薬屋があるくらいの小さな町に住んでいたとでも言えばいいだろうか。僕とお母さんは、その駅からちょっとだけ歩いたところにある、寂れたアパートで暮らしていたのである。ワンルームのぼろアパートだけれど、二人で過ごすには十分な広さだ。なんせ僕にはお父さんも兄弟もいない。お父さんは僕がとっても小さな頃に亡くなってしまっている。  大好きなお母さんは、僕をシングルマザーとして精一杯育ててくれていた。毎日朝から夜まで印刷会社でお仕事をしている。  で。僕はといえば、当時はそういうお母さんに感謝しつつも、まあほどほどにワルガキであったわけで。お母さんがいない寂しさを誤魔化すように、学校が終わったあとは友達と外で遊び回るような毎日だったのだった。まあ要するに、大人が“入っちゃいけないところ”に平気で入ったり、“登っちゃいけないところ”に勝手に登ったりってことを普通に繰り返していたのである。 ――そうだ、昨日は裏山で……ケンちゃんが面白いもの見つけたから調べて見ようぜとか言って。
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