おかごさま。

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 来た。僕は背筋が凍りついて、部屋の隅っこに避難した。カーテンは閉め切ってあるし、窓からも僕の姿は見えないはずだ。おかごさま、に気づかれないようにしなければいけない。あの声に反応してしまったら、お母さんの言う通り浚われてしまうに違いないと思ったからだ。 『お願い、開けて、開けて。……どうして開けてくれないのっ!!』  次第にノックの音は大きくなり、女の人の声は怒鳴り声に近いものに変わっていく。どんどん、どんどん、とまるで拳を打ちつけるようにドアを叩いてくるのだ。僕は怖くて震えるしかなかった。何でこんな目に遭わなければいけないんだ、とこの時ばかりはケンちゃんのことを恨んだ。僕は祟られるかもしれないと思っていたのに。僕が止める間もなく、ケンちゃんが祠に触ったりなんかするから! 「う、ううっ……」  責任転嫁をしつつ、半泣きになって僕は耳を塞ぎ続けた。暫くして女の人の声とノックは途絶えたが、時間を置くと別の人の声が聞こえ始めてうんざりした。おじいさんっぽい人、おばあちゃんっぽい人、小さな男の子の声、若い男の人や女の人の声。みんながみんな、たっくん、たっくんと僕のことを呼ぶ。あの神様に、名前なんか教えてないはずなのに。 ――あ、あとちょっとだ。あとちょっと頑張るんだ。  布団を被って震えながら、僕はちらりと窓を見た。いろいろな人の声とノックが繰り返し繰り返し響いたが、いつの間にか日が落ちて空からは赤い光が射しこんできている。もう夕方だ。もうちょっとで夜になる。夜まで耐えれば、きっとお母さんが迎えにきてくれる。それまで我慢すれば、きっと助かるはずなのだ。 ――何か、何かお祓いに使えるものないかな。……そうだ!  僕はランドセルにつけたままのお守りを思い出した。何年か前、お母さんと初詣に行ったときに神社で貰ったやつだ。今は肌身離さず身に着けておいた方がいい――そう思って僕はランドセルを机の下から引っ張りだすと、赤いお守りに手を伸ばした。  きっと大丈夫。きっと僕は助かる。そう思ってお守りに触れた、次の瞬間。 「!?」  ばちばちばち!と頭の中に火花が散ったような気がした。僕はお守りを持ったままひっくり返る。そして。 「え……え?」  頭の中が、ぐらぐらした。何かが、おかしい。僕はお守りを持ったまま、周囲を見回した。そして、呆然と呟くのである。
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