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壮絶な話を、彼は淡々と語る。私はただ唖然として、その横顔を見つめる他ない。
「死んだあとで、自分の家族がどうなったかを、少しだけ大天使様に見せてもらったんだ。俺はその時まで、本気で誰も悲しんでないと思ってたんだ。でも違った。……両親も兄貴も号泣してたし、前のクラスで俺の友達だったやつらが凄く泣いてた。そいつらは、俺をいじめから救えなかったことをすごく後悔して、裏で学校側に訴えてた……俺の両親といっしょに。なんとか、学校を変えようと、俺を助けようとしてくれていた。家にも何度も来てくれてたやつもいた。……俺はそういうことを何も知らずに、みんなに望まれてないと思い込んで、自ら命を捨てたんだ。とんだ恩知らずだ」
「……それは、ソラネくんが、悪いわけじゃ。だって知らなかったんでしょ?」
「そうだ、知らなかった。でも知ろうとしなかったことでもある。……知らなかったことは罪じゃないだろう。でも、知らなかったことで許されることなんか、この世の中には何一つとてないんだ。俺はそう思う」
だから、と彼は話をまとめた。
「俺は、お前にこうして気にかけてもらう価値のある人間じゃないし……早く転生したいと思っている。今度の人生では、少しでも誰かの役に立って、誰かの心を大切にできる人間になるために」
私は、言葉を失った。
自分が辛いから。自分が此処にいたいから。そんな自分本位のことばかり考えて転生を拒んでいた私と違い、彼は誰かに報恩することばかりを考えている。己の矮小さを思い知り、急に恥ずかしくなったのだ。
同時に。何故彼が見ず知らずの他人である私をあの時助けてくれたのか、私が彼を好きになったのかわかったような気がしたのである。
きっと、どこかで気が付いていたのだ。誰かのために役に立ちたい、そう願い続ける――彼の尊い魂に。
「……私」
黙ったまま、語らないまま終わらせるはずだった気持ち。それが、気づけばぽろりと零れ出していた。
「私。……ソラネくんが、好き。ほんとは、ただ次の人生が嫌なだけじゃなくて……ソラネくんと一緒にいたくて、転生したくなかったの。……そう言ったら、信じてくれる?」
私の言葉に、彼は。
「そうか。……人を見る目がないんだな、ミサコは」
初めて、笑った。どこか呆れた様子で、それでもどこか嬉しそうに見えたのは私の願望だろうか。
彼は、価値のない人間なんかじゃない。
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