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誰かに愛される存在なんだと伝わってくれれば――今の私には、それで十分だったのだ。
「……ねえソラネくん。本当に転生したい?私のことがどうとかじゃなくてさ。此処にいれば……もう二度と、怖いものは見ないで済むよ。いじめられることもないよ。苦しい思いして死ぬこともない。……それでも?」
「ああ、俺の気持ちは変わらない」
「そっか」
「引きこもっていた時。家の中は確かに安全だった。俺を脅かすものは何もなかった。でも……太陽が照らしてくれるのは檻の外だって、そんな当たり前のことにも気づけなかったんだ。自分を、世界を変えたいなら、踏み出す勇気は必要なはずだ。たとえそれが端から見て、どれほど小さな一歩でも」
だから、と彼は私に顔を向けて言う。
「だから、お前も踏み出してみろ。……確かに記憶はなくなるが……転生したあとで、会える確率も、ゼロってわけじゃない」
「ふふ、そうだね」
「ああ。人間の数なんか、あの星の数と比べたら全然少ないものだからな」
藍色の空がゆっくりと白んでいく。夜が明けていく瞬間を、私達は二人並んで見つめていた。
明けない夜はない、なんて言葉。生きていた頃は信じてなどいなかった。それでも今は少しだけ、ほんのちょっとだけ信じてみたい気にもなるのだ。
朝は必ず来る。そんな、当たり前の事実を。
「あ、ミサコ、いた!」
ばたばたと走ってくる足音に振り返れば、廊下から飛び込んでくるセシリアの姿が。
「ミサコもソラネも急いで!大天使様がいらっしゃったわ。あと二人、お迎えに来る子を選ぶんだそうよ!」
「だとさ。……行くか、ミサコ」
「……うん!」
私は彼とともに、手を繋いで歩き出した。
この優しい檻を出て、もう一度太陽の下を歩くために。
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