檻の外の太陽

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 誰かに愛される存在なんだと伝わってくれれば――今の私には、それで十分だったのだ。 「……ねえソラネくん。本当に転生したい?私のことがどうとかじゃなくてさ。此処にいれば……もう二度と、怖いものは見ないで済むよ。いじめられることもないよ。苦しい思いして死ぬこともない。……それでも?」 「ああ、俺の気持ちは変わらない」 「そっか」 「引きこもっていた時。家の中は確かに安全だった。俺を脅かすものは何もなかった。でも……太陽が照らしてくれるのは檻の外だって、そんな当たり前のことにも気づけなかったんだ。自分を、世界を変えたいなら、踏み出す勇気は必要なはずだ。たとえそれが端から見て、どれほど小さな一歩でも」  だから、と彼は私に顔を向けて言う。 「だから、お前も踏み出してみろ。……確かに記憶はなくなるが……転生したあとで、会える確率も、ゼロってわけじゃない」 「ふふ、そうだね」 「ああ。人間の数なんか、あの星の数と比べたら全然少ないものだからな」  藍色の空がゆっくりと白んでいく。夜が明けていく瞬間を、私達は二人並んで見つめていた。  明けない夜はない、なんて言葉。生きていた頃は信じてなどいなかった。それでも今は少しだけ、ほんのちょっとだけ信じてみたい気にもなるのだ。  朝は必ず来る。そんな、当たり前の事実を。 「あ、ミサコ、いた!」  ばたばたと走ってくる足音に振り返れば、廊下から飛び込んでくるセシリアの姿が。 「ミサコもソラネも急いで!大天使様がいらっしゃったわ。あと二人、お迎えに来る子を選ぶんだそうよ!」 「だとさ。……行くか、ミサコ」 「……うん!」  私は彼とともに、手を繋いで歩き出した。  この優しい檻を出て、もう一度太陽の下を歩くために。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加