孤高のスター

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孤高のスター

からから、音を立てて某コーラ会社の空き缶が転がる。 なんか、不敏だな。 あの空き缶は使いものにされずボロボロで塗装は剥がれかけ、ところどころへこんでいる。 将来あのように使いふるされ捨てられるような道は辿りたくないものだな。 閑散としたホームに俺以外に丁度、酔い潰れた汚らしいおじさんがベンチに座っている。 隣に失敬して座り、あと5分もの間この寒い中電車を待たなければならないのかとため息をついた。 このおじさんはシャツのボタンは第三まで開けてあるし、しかも全部掛け間違っている。 一番下のボタンが一つ余っていた。 髪はボサボサ、ズボンはしっかりと社会の窓も閉めている。 ライトの眩しさに目を細める。 このど田舎じゃ30分に一本しか電車がない。 起こしてあげようか。 「ねぇ、おじさん。電車着きましたよ」 「あぁ、すまない」 おじさんは目を擦り、立ち上がった。 「親切な高校生だな。どうもありがとう。 ところで、おじさんじゃない。俺はこう見えてまだ25だ」 目を開けたおじさんは以外にも強い眼差しとしっかりとした体格で、声にもハリがある。 「電車いっちゃいますよ」 「電車?あぁ、いいよ。それが目的じゃないし」 折角起こしてあげたのに。 俺は真顔に戻り、電車に乗ろうとすると手を掴まれた。 「君、ちょっと待ってくれ」 「何するんですか」 電車が発車する前にどうしても乗りたい。 「君、願いとかないのか」 不審な男に怪訝に見つめ返した。 「何かないかっていってんの。 例えば、女の子にモテモテになりたいとか」 「ないです」 その一言を言った瞬間、電車の扉がしまった。 肩を落として顔を上げた。 「ちょっと、電車行ってしまったじゃないですか」 「君に願いを叶えるチャンスをやろう」 俺はライトノベルのお決まりの安い台詞だと思った。 「そんなこと言って、壺とか売るんでしょ。 マルチ商法か詐欺の下請けか、それか、代償に命をもらうとか一番大切なものをもらうとかなんとか。 いいですよ。結構、満足しているんで」 手を振ると彼はまだ話しかけてくる。 「ハーレムになりたくないか」 「俺は無理だ。だって、まだ童貞彼女歴0年彼女いない歴イコール年齢だし。もう、諦めきってる」 おじさんは諦めない。 「…んじゃ、大金持ちとか」 「お金あったら命狙われるし」 「顔をイケメンに、スタイルをモデル以上にとか」 俺は批判された気がして露骨に嫌な顔をした。 「顔だけよくても、俺は元々性格が良くないから生かしきれないし。神様だってあげるだけ無駄だと思っているよ」 彼は頭を捻っていた。 「んー、結局お前は何がいいんだ」 「え、例えばボールを集めるとか」 たちまち、苦笑いになる。 「それは、ただの某人気漫画だな。 そーいうパクリみたいなのはなしで」 何も思い付かないわけでもないが、自分には不相応な気がして言い出せない。 「えー、俺は理想が高いよ?いいの」 「もういっそ何でもいいや。 世界の均衡を揺るがすような願いは聞き入れたくないんだが。君で最後にしないと俺の仕事が増えるし。 だから、もう一度聞く。お前の望みはなんだ」 俺はバクバクと動いている心臓を抑えつつ、声を張り上げた。 「パラレルワールドを作って、俺のやりたいこと全部できるようにする」 おじさんは、目を丸くした。 「なるほどな。かなり漠然としてるけど。分かった、作ってやろう」 「本当に」 「うん。そのお年玉で勘弁してやる。俺の御飯代に使わせてもらう」 いつの間にか鞄にいれていたお年玉を抜かれていた。 「大事なお年玉なんだよ、返せよ」 手を延ばしたが、届かない。 「これが代償なのかよ」 「そんなん、安いもんだろ。たった3万円で買えるなら」 「そんな手にはのらない。こういう大人は平気で嘘をつくから。証拠出してみろ。俺の前で。 もし、何も出来なければ警察に詐欺被害かカツアゲで訴えるから」 彼は頭をかいて笑った。 「まずは、家に連れていってくれ」 「何で見ず知らずのおじさんを家に連れていくんだよ」 俺はおじさんに背を向けた。 「この話はなしにする。そんな危険なことできねぇよ」 「本当にいいのか。家でなくてもいいから、よく行くとこないのか」 「んー、図書館か学校か」 「そこに、向こうの世界と繋がる道を作るんだよ。勿論、そこを通った人が転送されるわけではなく対象の君だけだ。 作りたいのは具体的にどんな世界なんだよ」 俺はもし魔法のランプから誰か(魔神に限る)が出てきたらこれにすると密かに決めていた。 「ええと、今流行りのオートライフってやつ。それの付随の世界がいい」 駅のホームにある電子公告でもでかでかとオートライフの公告がやっている。 スクリーンを見上げる。 「すっげぇな」 「マークリーの最新ウェアが発売されたんだって」 ここにはスーパープレイヤーがいて、この中のあらゆる勝負、カジノだったり、じゃんけんや神経衰弱、レスリングどれも負け知らずのプレイヤーがいる。 『コートA13点、フィートが優勢です。 リーダーのシトリン・マークリーがまた点を入れました』 「かっこいい。身体のハンディに関係なく戦えて ゴーグルを装着するだけで、頭で考えた通りに動く。 コントローラーとかがないから操作スピードも桁に違いに早い。 より実際の人間の感覚を元に勝負出来るってわけ。 勿論、賞金はある。それだけじゃなくコミュニケーションの場にもなる。
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