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歩いて白百合畑を覗いてみた。太陽の光が乱反射して一面真っ白な空間に見とれていた。ふと、顔を上げると同じ歳くらいの少女がじょうろで水をあげている。ここの小屋の子だろう。僕は気になり彼女に近づいた。
「綺麗な白百合だね、君が育ててるの?」
集中しているのか彼女は百合から目を上げずに答えた。
「うん。毎日枯れないようにお水をあげているのよ」
「君の名前はなんていうの?」
すると、突然僕の目を見た。彼女は綺麗な紅い瞳をしていた。
「女の子に名前きく前に自分が名乗らないと」
「あっ、ごめん。僕はビオラ」
「私はルリ。あぁ、横の豪邸の人よね。
なんでこんな辺鄙なところに来たの。
お隣の美人の子供なのかしら」
「うん。身体、弱くて療養する為に空気の澄んだこの丘に引越して来たんだ。」
「病気って呼吸関係?」
「違うんだ。僕は」
困惑している僕に彼女はそのままでいた。
「言いたくないなら言わなくていいわよ。ちょっと気になるけど、あえて聞かないでおくわ。」
助かる、小さく呟いた。
「ところで、君の両親は。干している服が子供用の物だけだから」
「理由は言いたくないわ。もういないのよ」
彼女は寂しい背中をしていた。
「ごめん。聞いてはいけなかったね」
「いいの、それより。話相手が久しぶりに出来てよかった。毎日話に来てくれるわよね」
戸惑う僕を彼女は笑った。
「貴方もしかして友達付き合い下手くそなの」
僕の引っ越したもう一つの理由は、上流階級の学校であるのに馴染めなかったからだ。
「よく言われる…それが僕の悩みだから。情けないや」
「コンプレックスね。私にだってあるよ。死にはしないけどね。また仲良くなったら話してあげる」
ちょっと自由な子だなぁ。でも、何かこの子には会いに行かなければいけないような不思議な感覚が芽生えた。そして、僕は毎日会いに行くようになる。
自室に入ってみると既に日は落ちていた。
「これは豪華な部屋だ。」
白いレースのカーテンが月明かりを取り入れている。今日は満月の夜だったな、光が僕の前髪に落ちた。少し眩しい月を見上げた。
「悲しくなるほど綺麗だ。」
僕はベッドに腰かけた。
***
「これ、今日のアフタヌーンティのクッキー。良かったら休憩に一緒に食べない?」
僕はメイドに持たされたバスケットを開いた。
「なら、オススメの場所へ行こう。あの小屋の裏で食べたら、きっと美味しい」
小屋の裏は丁度この時間は日陰になっていて気温もとても良い。
麓の町を見下ろせて景色が美しい。賑わう市場がよく見える。
大きくそびえる時計台も真上の太陽に大きな影を町に落としている。
手を繋いで歩く親子、魚を片手にお店の人と会話をする主婦、買った大きなたまねぎやとうもろこしを手提げ袋に入れお使いをしている子供。
「楽しそうだよね」
「私と百合の世話をする以外は君はずっと屋敷にいるんだね。一緒に町にいこう」
「メイド達に行ってはいけないって言われてるんだ。僕の容姿は東貿易会社のラオール家の子息だってばれているし、何をされるか」
「大丈夫だよ。変装して行こう」
ルリの家にあったフードつきの服を羽織り丘を降りた。
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