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「いわば、この世界の写しのようなものです」
「でも、せこくないか。君だけ本体が中に入るなんて。他のプレイヤーはあくまでゲーム機と繋がってる訳なんだから」
俺はムッとしておじさんを見た。
「いいや、結局は頭の回転速度ですよ。
俺もマークリーに勝てるかもしれない」
俺がおじさんを見返すとおじさんは頭を縦にふった。
「秩序を乱すようなお願いは基本的には断るんだが、そうでもない限りは基本的にはなんでも聞いてあげることになってるから分かったよ」
「それはそうと、天使はこんなおじさんを雇うんですか。悪魔か死神の可能性もある」
おじさんは俺を見た。
「は?俺は神様だから雇われてないし」
彼は一瞬にして青年になった。
「退屈で飽き飽きしてたんだよ。神様ゲーム的な」
「そんな感じかよ」
「全知全能の神と言っても、暇には勝てないな」
「それなら世の中の人を救って下さいよ」
「はぁ?そんな誰でも救われる世界なら面白くないだろ。誰も努力しなくなる。
同じ家族、望めば何でも出来る、お金に不自由しない誰も死なない、誰も仕事もしないなんて矛盾し過ぎている。それに、俺以外の神なんていくらでもいる」
俺は納得しつつも釈然としない。
「なんだよ一人かと思った」
俺の腕につけている端末を見た。
「それは」
「シークレットアイズ。全世界シェアは98.5%お年寄りも殆どが使用しています。今は全部これで出来ます」
「ふぅん。
じゃあ、これの入場ゲートを作る。
教室の扉でいいか。それとも別の」
「休日でも使えるように近所の公園にしてほしいです」
「分かった」
俺は次に来た電車でおじさんと最寄り駅で降りて、公園に向かった。
「ここで」
「ここがバーチャル異世界というか、パラレルワールドへの入り口になる。登録者である君以外には普通の公園に見える。
君はここに入ると転送される。君はこのパラレルワールドの創始者であり王だから。
君の想像通りに作れることになっている。
さぁ、とりあえず一歩入ってみてくれ」
俺は恐る恐る人気のない公園の中に足を踏み入れた。
何も起こらない。
「何も起こらないじゃないか」
振り返ると入ってきた所を境に鏡のようになっている。水の表面のように自然に外界と溶け合っている。
おじさんは向こう側にいた。
「おじさん、モーションなし?」
「あぁ、転送されるからアニメみたいなの想像してるかもしれないけど、普通に境界を越えるだけだから」
「なんだ」
少しだけがっかりした。
「ほら、何かやってみろ」
手の平から炎が出た。
「うわ」
なんとなく火が出たらすごいなと思っただけなのにその通りになった。
「すげぇ、早速オートライフの世界を作ってみよう」
俺が手をかざすと手の向こう側にオートライフの中心部のモリートシティが現れた。
オートライフの世界を思い浮かべて足元を見ると俺のプレイしているキャラクターの靴に変わった。
「もしかして俺も」
「君もこの世界の一員だからね」
俺は気がついたら走っていた。
足に機械がついているようにいくらでも加速して、ジャンプすると空に高く飛び上がった。
月の無重力空間のようにゆっくりと下降していく。
モリートシティに近づきスタジアムの大きさに驚く。
はやる気持ちを抑えてスタジアムの中に入る。
中には多くのプレイヤーが観客席に座っていた。
プレイヤーはウサギだったり、ただのスライムみたいなべとべとした奴や、球体だけのやつもいた。
「邪魔だよ、早く座ったら」
隣のロボットに肘をつつかれた。
「悪い」
俺も観客席に座る。すぐにアナウンスが流れた。
―エントリーはあと1分で締め切りです。お急ぎ下さい
俺は隣のロボットに話しかけた。
「何のエントリー?」
「君、知らないでここに座っているのかい。変わった奴だな。今日はシトリン・マークリーの防衛戦だよ。全プレイヤーがエントリー出来るんだ。
戦いは何でもオーケー。ただマークリーに勝つのは難しいだろうね」
話を聞き終わらないうちに走り出していた。
マークリーに勝ちたい以前に俺はマークリーのファンで、実物のマークリーに会いたい。
「俺もやりますっ」
俺は閉めようとしているカウンターに滑り込んだ。
「弱そうなやつ。あのマークリーには勝てないよ」
出場者の中にいたがたいのいいネズミが言った。
俺は急きょエントリーして、控え室に入った。
頭の良さそうなやつかがたいのいいやつしかいない。
―エントリー受付はただ今を持ちまして終了となりました。出場者の皆さんは控え室でお待ち下さい。
20人あまりが俯いていた。
―対戦の順番をこちらからランダムに決めます。
まず最初は、エントリーナンバー17ウルフ・ロバート
大男は歓声を受けながら真ん中のステージに出た。
―勝負は何にしますか?
「俺は決まっている。腕相撲だ。あんなのに負けるわけない」
俺は今か今かとキョロキョロと回りを見回していた。
―それでは主役の登場です。シトリン・マークリー。
さっきまでの歓声が嘘のように渦を巻くような歓声が上がる。
彼はすっと真ん中に歩いてきた。
顔を上げた彼は間違いなくシトリン・マークリーだ。
平面の中の立体だった彼が目の前に本物として居る。
興奮しすぎて鼻血が出そうだ。
彼のコスチュームも最高。立体で見ると色もいい。
「ずるはなしだぜ」
ウルフが笑っていう。
二人の体格差は明確だ。
「なめられたもんだね」
二人は目の前に現れたテーブルに肘をついた。
―負け知らずのウルフとマークリー。世紀の合戦。
レディーファイト!
僅かにマークリー側に傾いて硬直状態が続いていた。
「まだまだ」ウルフが力を入れた。
―あのマークリーも苦戦しています。どちらも引かない。さぁ、どちらが。
一瞬マークリー側に傾いた。
―ウルフが優勢です。マークリー負けてしまうのか。
こんなとこでマークリーが負けてたまるか。
拳を握りしめていた。
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