2人が本棚に入れています
本棚に追加
ナイトメア
シークレットアイズの振動に目を覚ますと、サッチャーから「レイ早く来てくれ」というボイスメッセージがあった。
俺は急いでオートライフに入った。
何か様子がおかしい。
サッチャーが俺に手を振った。
「どうかしましたか」
チップなど他のメンバーもいた。
「端的に言う。マークリーがダイブされた。
行方知らずになっている。
ログイン履歴もこの数日ない。どうなっている」
気まずい沈黙が続いた。
「誰も知らない、か」
「マークリーのアドレスを知っている人は?」
アドレスというのは、この世界でいう家でプレイヤー同士でアドレスを知っていればプライベートである空間に呼ぶことができる。
「俺たちはこんな関係だし」
「何度呼び掛けても応答がない」
やっと俺のヒーローであるマークリーの側に来れたのに。
「ダイブの侵入が進めば、マークリーのアカウントが乗っ取られ最悪IPを書き換えられ、マークリーのオリジナルは消滅する」
そんな。信じられない。
「俺が必ずマークリーを助けます」
「どうやって」
エンゲートが馬鹿にしたように笑った。
「どうやってもです。彼を死なせない」
サッチャーが俺に向かって何かを投げた。
投げられた球体を手に取ると腕の装備にピッタリはまった。
「俺たちは顔が知られていて、相手の警戒をとけない。君がこのマスターキーで彼を救ってくれ」
マスターキーとは創設者オッドアイがオートライフの功労者であり、絶対なる信頼があるプレイヤーに渡したとされているものだ。
マスターキーはバグを書き換えられ、新たにシステムを作れるいわば神の手なのだ。
マスターキーにかかれば、オートライフのお金を生産できるし現実世界とリンクしている部分を操作出来る。
「おい、こいつは新人だぞ。悪用でもされたら」
「マークリーを助ける為なら少しの犠牲もいとわない。俺もチームメイト、友人、一ファンとして彼ともう一度会いたい。君たちは違うのか」
他の面々は俯いて頷いた。
マークリーを探さないと。
「レイ、君はマークリーの一番のファンだ。マークリーのいる思い当たるところは君が一番多いはずだ。
何かあったらすぐに俺たちを呼んでくれ」
「はい」
俺はマークリーのお気に入りの場所を探した。
オートページ第53号のマークリーの記事に載っていたのは確か、ローエリアの時計台にジャップエリアの庭がお気に入りで人のいないところに住みたいと言っていた。
マークリーの憧れは確かシャーロックホームズだった。
俺は時計台の下に向かった。この街のどこかに住んでいるはずだ。
一件一件しらみつぶしに回るしかないか。
窓から中を覗くと家族が楽しそうに話している。
「聞こえるか」
サッチャー達が回線を繋いだままで聞いている。
「はい、聞こえます」
「GPSをつけているからいつでも場所が分かる。今はクラシック通りにいるみたいだな。」
夜の街は少し薄気味悪い。
「マークリーどこにいる。君が消えてしまったら俺は」
唐突に目の前の時計台が轟音と共に崩れ落ちた。
「どうしたレイ」
「時計台が崩れ落ちた」
ものすごい衝撃で立っていられない。
「マークリー逃げろ」
「それよりレイ、君も危険だ」
俺は気付けば走っていた。瓦礫の方向へ向かうと砂ぼこりで辺りが見えない。
どうなっているんだ。足元が崩れ俺は真っ逆さまに落ちていった。
暖かい液体の中に沈んでいく感じがして、心地よくて目を閉じそうになる。
「レイ起きろ。敵の陣地で寝るのは危険だ」
はっと目を開けると目の前にマークリーのコスチュームを着たテディベアが歩いてきた。
腰のライフルを取り出してそれに向けた。
思い出せないけど見たことがある場所だ。
「本人の本体かもしれない。気を付けろ」
「まさか、この空間自体がマークリーの作り上げた世界だったのか。」
本人を殺すと自分も出てこれなくなり、本人も二度と目を覚まさない。
「彼の無意識領域にリンクしている。つまり、彼の夢の中だ」
どうやら俺の学校か。何故ここに。逃げないと。
テディベアが歩いてきたところは白で塗りたくられたように消滅している。
目の前にマスターキーで出現した扉を開いてもまた扉が出てくる。
「マークリーの無限ループに引っ掛かっている」
その扉を開くとお花畑に出た。
お花畑はジャップエリアにあるマークリーの庭だ。
ここに来られるのはマークリーだけのはずだ。
「これはまずいな。俺が入れるということはセキュリティが弱っている。マークリーのIPコアに到達されないようにしないと」
最初のコメントを投稿しよう!