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「本当か。心海から戻ってくる方法は聞いたことがない」
「でも、あらゆる数式も書き換えてしまうマスターキーがある。レイだけでも帰せるだろうか」
俺はテディベアの腕を強く掴んだ。
「通常は別個体のはずが少々厄介で僕の仮説では、僕そのものがバグになってしまった。
君のマスターキーで誰かが意図的に入れたこのバグを壊してくれ」
「それで助かるのか」
マークリーの声がしぼんだ。
「わからない。もしかしたら、僕ごと消滅するかもしれない。バグの消滅は恐らく僕の消滅でもあるからね。それは誰も分からない。
かといって僕を直接殺すとこの世界が無くなって君が出られなくなってしまう」
「それでも俺達二人が帰れる方法を考えるんだ。
君の犠牲は誰も望んでいない」
テディベアは首を横に振った。
「難しいかもしれない。レイだけでも戻れれば。それにいつ僕がまた暴走するか」
「そのときはまた暴走しないように俺が止める。そして一緒に家に帰る。文句は言わせない」
「君には敵わないよ」
困ったように笑って見えた。
「マスターキーを僕に向けてウイルスだけをクリアにしてくれ。
恐らくすぐに僕の結界が解け、この世界が元のモリートシティ郊外に戻る。
それと同時に僕のフォルムも一時的に元に戻る。どうか見ないでくれ。僕は君とこれからも仲良くしたい」
淡々と言ったマークリーの顔を見つめた。
「俺はマークリーの一番のファンと同時にチームメイトであり友人だ。君がどんな見た目だって関係ない」
「そうか、ありがとう」
彼は寂しそうに笑った。
「僕はどうやら勘違いをしていたようだね。君を見限っていた。もし、また逢えたら」
また逢えたらなんて、と言いかけると接続は切れ、マスターキーを彼に向けると彼の腕が消えて、その下に人間の腕が現れた。思っていたより細く小柄だ。
実際のマークリーと一回りは違う。
足元から腰、上半身に向けて動かすとセーラー服が現れた。
そのまま顔までいくと見慣れたというか、俺が個人的にいつも見ている顔があった。
「中原さん」
「私のこと知ってるの?」
彼女は戸惑っていた。
俺は自由に着脱可能なホログラムのレイの身体から元に戻った。
「葛城くん。レイってあなただったの」
「マークリーが君だなんて」
二人とも驚きで開いた口が塞がらない。
「途中で気づいていたんじゃない。君の夢はまるで、女の子みたいと言いかけたよね」
「うん、まぁ。夢って本人の深層心理が影響されるからもしかしてと思って。テディベアなんて」
彼女が近づき俺を抱き締めた。
急激に体温が上がり心臓の音がうるさい。
恥ずかしくて顔が見られない。
「助けてくれてありがとう。さぁ本部に帰ろう」
彼女はすぐにマークリーの姿に戻った。
見慣れたイケメンを見ると複雑な気分になる。
俺は彼の背中を追った。
「マスターキーを使えば、僕なんか始めから簡単に捕まえられたのに」
「そこまでは思い付かなかったんだよ」
マークリーはどちらかと言えば、ヒーローだけどクールなイメージがあり、愛想も良くない。
ファンサも多いかと言えばテレビ以外のメディア露出が多いだけというだけで、取材でもそんなに明るくない。
「中原さん、マークリーは君とは似ても似つかないね」
「キャラだよ。舐められないようにね。一応僕がオートライフの王だからね。誰にも譲らない」
マークリーの怖さはこの圧倒的支配欲なのかもしれない。ファンはとてつもない数がいて、グッズを売り出せば即完売。
「そもそも何故オッドアイにそんなにまで好かれているんだ。プレイヤー数は億を越えるのに。
そこだけはどこにも明かしていないよな」
マークリーはピタリと足を止めた。
「ききたい?」
「うん」
彼は真っ暗な空を見上げた。
「どうしようかな」
暗号で出来た星が降っている。
「君の命の恩人だ」
「言うね。それはね、オートライフの創設者が僕の叔父なんだよ。そもそもは僕のこのフォルムを大層気に入ってね。他の甥姪はそこまではオートライフに興味があまりなかった。
それほど有名でもなかった頃に僕がかなり強くなってしまってそのまま」
「マークリーは裏コードを持っているという噂だ。
どんな勝負もそれで勝てるって」
「ひどいな、ジョーカーゲームは負けるときもあるよ」
そんなこんなで本部に戻ると皆が迎え入れてくれた。
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