12人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
別れた2人
「オレは、お前に救われたんだ。優」
そう、優のおかけでオレの人生は変わった。5年間絵も続けられた。あいつならこう考えるだろうと思ううちに自分の行動がいつの間にか良い方向へと変わっていけたんだ。
「それなのに······なのになぜお前は、そんなお前が魔王なんかにっ!」
漆黒のローブを身に纏う優は魔王としてオレの前に姿を現したんだ。
「長い話しご苦労さまだな裕二、いや勇者と呼ぶべきか?」
オレは18のとき女神に勇者として選ばれこの異世界で魔王を倒すために旅へと出た。このときはまだ優が魔王だったとは知らずに。
「優、もうやめようぜ」
「は?」
「こんなことはやめてまた昔みたいに」
「お前、ふざけてるのか?」
「ふざけてんなんかいないっ、魔王がお前と知ったときオレは優を説得するためにここにきたんだ!」
「いでよ魔の炎」
優が出した紫の炎はオレを包みこんだ。
「うああっ」
「お前はガキだな、いつまで過去を引きずってる。その記憶は遠い過去、なんの意味もなさない」
紫の炎にやられ膝をついてしまう。
「くうっ、いったい、お前になにが。なぜ突然メッセージをよこさなくなった」
下を向いていると影が、そして胸ぐらを掴まれる。
「簡単さ、お前はダチでも何でもないってことさ」
「うそだっ、最後にスマホで話したときお前は『やっぱり会話もいいけど会いたいよな』って言った。なにかあったんだろ、なにか」
「魔の雷」
「ぐぁあああっ」
「魔の風圧」
ドンッ、勢いよく壁に激突した。
「懲りないやつだな、お前は」
「······は」
「ふぅ、今度はなんだ」
「絵は、描いてるか?」
その瞬間だった。漆黒のローブが脱げるほどの速さで左頬に殴りかかりオレは吹っ飛んだ。
「うるさいんだよ、この姿を見な」
全身筋肉に覆われているが不気味な黒い霧が漂っている。
「お前はこの世界では魔王と呼ぶが少し違う、オレは魔王戦士、魔王と戦士の力を合わせもつ戦いの魔神だ」
「くっ······ぺッ、最初は難しかった」
血の混じったつばを吐き捨て痛みがあってもなんとかゆっくりと立ち上がる。
「でも、優に絵を教わったことを思い出しながらずっと描き続けた」
「うぁあああっ!」
キンッ、剣で魔王戦士の蹴りを受け止めた。
「うるせえって、言ってんだよっ」
「まさる」
「ようやく剣を抜いたか」
「言えっ、お前をそんなにまで追い込んだ出来事とはなんだ!」
無口で今度は両手にさっき出した紫の炎が拳に纏い攻めてきた。オレは空かさず剣でさばいていく。
「くっ、まさるっ!」
「······お前はいいよな、さぞ絵を描いて楽しかっただろう」
「なに? ぐはっ!」
動揺した瞬間、溝に紫炎の拳が入ってしまう。腹を抑えるオレに、
「オレはその逆さ、否定され続けた」
「バカなっ、お前の絵を否定なんて」
回し蹴りをしてオレはまた壁へとぶち当たる。
「事実なんだよクソがっ、オレはずっと『お前の絵は下手だ』『才能がない』と部活の先生に言われ続けた」
言葉が出なかった。まったく信じられなかったから。
「そんな事が続いて行くうちに、いつの間にかオレはデジタルだろうがアナログだろうがペンを持てなくなった」
「まさる······」
オレは勝手にあいつは楽しんでるって、幸せだって思ってた。なのに、なのにずっと苦しんでいただなんて、オレはそのことをずっと知らなかった。友だち失格だ。
「ふん、勝手にそれだけだと思っていたらおめでたい奴だ」
「まだ、まだなにかあったのか?」
「くっくっくっ、うああぁあああっ!」
おぞましく叫んだ優の両肩から腕が、
「それだけじゃねえのさっ、オレだけが左利きってだけで『右で書け』と言われる始末に理不尽にオレだけが怒られた。てめえらは利き腕で書いてるくせにだっ!」
発狂するように身体の血管が浮き出ては黒くなっていく。
「そんなガキにどいつもこいつも学校いけだ? ふざけやがって、なにが平等だ、なにが公平だ結局は傷つけた奴が得をして、傷ついた奴が損をするんだよぉぉぉーっ!」
「まさるっ!」
「そんなときネットで復讐の力をやると言う声を聞きオレは闇を受け入れたんだ、どいつもこいつも傷つけた奴等を苦しませるためにぃぃぃーっ!」
優の心は泣いている。辛くて逃げたくて死にたくて、そんな気持ちを誰にも打ち解けられず、恐らくは親にも。友の嘆を聞いて、
「待ってろ優、おまえを救い出すっ!」
最初のコメントを投稿しよう!