3人が本棚に入れています
本棚に追加
「一週間だけ一緒に居させて下さい!」
栗色の髪を耳上で2つに束ねた、ツインテール。むきたての卵みたいな滑らかな白い頬。
一目見て、白うさぎを連想させた。
そして、濃紺のセーラー服と茜色のリボン。
短めのプリーツスカートから覗くカモシカの様な白足。
どっから見ても女子高生な彼女は、文庫本をレジに差し出しながらそう呟いたのだ。
「……え?」
「だ、か、ら、行く所ないんです!」
「は?」
まさか、家出?
「あなたの家に居候させて下さい!」
「はぁ?!」
しまった。大きい声を出してしまった。お客様にジロジロ見られてしまう。
僕は小説家を目指しながら、本屋さんで働いている。新刊が出る度に試し読みしたり、時には購入したりと色々と勉強をしている。昔から本を読むのが好きな僕にとって、本に囲まれて働けるこの場所は天国の様だ。
そんな事より、今の状況が飲み込めない。
「あの、後ろにお客様もいるので……」
小さめの声で彼女に向けて言う。
「じゃあ、いいんですか?」
「あの、とりあえず、買った本を持って……」
「いいんですね?やったーー!!」
彼女は喜びのあまり飛び跳ねる。うさぎみたいなツインテールが揺れる。
喜びながらレジ横にズレた彼女に、イライラしながら次のお客様の会計をした。
何度か会計をしている内に、彼女の気配が消えた気がしたので「何だ、冗談だったのか……良かった」と安心し、本の整理に出かけた。
逆ナンパか何かだったのか。
そんな事を思いながら、本の整理をしていると後ろから足カックンをされ、倒れそうになる。
おっと、危ない!
勢いよく振り返ると、さっきの女子高生がにまり、と笑って立っていた。
胸にはさっき買った本を抱え、いたずらな笑顔を振りまいている。
「ちょっと!やめて下さい!」
「いいじゃないですか?今日から同じ屋根の下で暮らす仲なんですから」
「は?だから、それが意味分からないの!家出でもしたんですか?」
「違うの。理由があって……」
まん丸い目が、一瞬潤んだ様に煌めく。
泣かれては困る。
「えっと、どうして、友達の家でもいいんじゃないですか?」
「あなたじゃなきゃダメなの!」
「だから、どうして、僕?」
「あなたの夢を叶えさせたいの!」
「はぁ??」
意味が分からない時、人間は首を傾げるんだと実感した。
「あなた、小説家になりたいんでしょ?そのコンテストの〆切は一週間後。だから、私が一緒に考えてあげる。私と一緒に小説を完成させて、大賞を取りましょう!」
また僕は頭を傾げた。
この女子高生との不思議な一週間が今、始まる。
最初のコメントを投稿しよう!