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笹山さんの夢を見た。
ふんわりとしたボブを耳に掛けていて、甘ーい花の香りが全身から漂ってくる。
僕の片想いの相手。
せっかく、幸せの余韻に浸りながら起きたかったのに……小動物みたいな寝息が聞こえて目を覚ました。僕のベッドには、昨日の女子高生が気持ち良さそうに寝ている。なぜか、僕がソファー。
「今日は疲れたから、とりあえず寝る」と勝手にベッドに入り込んで寝た。ツインテールとセーラー服のまま寝ている。
夢では無かったみたいだ。昨日の訳の分からない出来事。でも、今日だけと僕は言ったから仕事から帰ってきたら、居なくなっているだろう。きっと。
僕は彼女を残して、仕事に向かった。
「清水さん、これ運ぶの手伝ってもらってもいいですか?」
笹山さんが僕の元にやって来た。今日もすごく可愛いです。口元の緩みを我慢しながら、一緒に本たちを運んで整理に取り掛かった。僕の横に長い腕がひょろりと伸び、美しい指先が本を整理していく。そんな姿すら美しくて見惚れてしまう。この光景だけで、ご飯が何杯も食べれそうだ。
短編小説大賞で受賞したら、告白でもしようか。
「瞬!瞬!」
振り向くと、昨日の女子高生が手招きをしていた。あー、せっかくの二人の時間が……。
深い溜め息が漏れる。
「誰?妹さん?」
「うん、そう!」
まさか、居候なんて事は言えない。
「何?」
「勝手に出かけないでよ」
「え、だって気持ち良さそうに寝てたから」
「あと、鍵ないから開けっ放しだよ」
「は?NO施錠って事?」
「うん、NO施錠!」
盗まれるような大金も宝石などもないが、やっぱり心配だ。彼女に鍵を渡して、とりあえず帰ってもらう事にした。
今日こそ帰ってもらおう!そう思ってアパートまで帰ってきた。鍵が掛かっていたので、ドアチャイムを鳴らすと彼女が急いで出てきた。
「おかえり!」
満面の笑みの横でツインテールが揺れる。
「ただいま……」
何だ、このやりとり。夫婦みたいだな。しかも未成年と。
僕たちはコンビニ弁当を囲みながら、色々と話をした。聞きたい事は腐るほどある。
「あのさ、どうして……」
「ねぇ!書いてる小説見せてよ!」
「えぇ?どうして?」
「言ったじゃん。小説手伝ってあげるって!」
「別に、君に手伝ってもらわなくたって……」
「あと6日しかないの!早く書かないと!」
「確かに〆切まで6日しかないけど、自分でどうにかするからさ。家に帰らない?」
一瞬の沈黙の後、彼女の目が潤んで涙が頬を伝っていった。
「ふぇっ!瞬って何でそんなに冷たいのよ!行く所がないって言ってるじゃん。その辺で野垂れ死ねって言うの?残酷すぎる。私はそんなあなたを軽蔑する!!」
「はぁ??」
何だ、こいつ!僕はまた首を傾げた。訳の分からない事を言い放って泣き散らかす彼女。仕方なく、ティッシュを渡した。ひっくひっく肩を揺らしている。
「分かったよ……小説の〆切までの約束!居候させてあげる代わりに、しっかりと小説の手伝いをしてもらうから!」
その言葉を聞くと、満面の笑みを振りまいて僕に抱きついてきた。髪のいい匂いが鼻腔を擽る。気分がコロコロ変わる猫みたいな子だな。肌が透けるように白い、でもほんわかした雰囲気の不思議な子。
「お前の事を今日から、うさぎと呼ぶ」
「可愛いあだな!ありがとう!小説頑張って完成させるよー!!」
「おー!!」
二人一緒に天井に向けて、拳を振り上げる。
変なペースにハマりながらも、うさぎとの同棲生活も3日目に突入する。
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