灯りのともる家

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灯りのともる家

 帰りの電車は好きだ。 学生、社会人、親子。 知らない人ばかり乗っているのに、目的はみんな同じ。 自分の家に帰る。 同じ箱の中でみんな同じことを考えてる。 このまま同じところに帰れればいいのに。 次の駅を知らせるアナウンスが流れた。 この駅はいいな。 遠くまで商店街が続いてる。 行き着く先には大きなマンションがあって。 大きなスーパー。大きな病院。おしゃれな店。 家までずっとおんなじ道を歩ける人がいるんだろうな。 駅から続くたくさんの店は明るくて、祭りの屋台を思い出す。 オレンジ色の、屋台の灯り。  早くに親を亡くした僕の、わずかな家族の思い出だ。 星だけが頼りの真っ暗な夜。転ばないよう父と母の手をしっかりと握って。 ふと気がつくと、僕と同じように浴衣を着た子が何人もいて、同じように親と手をつなぎながら石段を登っていく。 父が、知らない子の親とまるで友達のように話していた。 登り疲れて母に抱かれ、やがて石段のてっぺんに着く。 眩しい光が広がって、お囃子(はやし)の音が急に耳を塞ぐほど大きくなる。 とても不思議でワクワクした。 「お祭り駅」で、親子が降りる。 いいな。 再び電車が動き出した。 溜息をつく。 あの駅だったら、風呂無しでもいっそ共同トイレでもいいのに。 「お祭り駅」から七つ目。 僕の降りる駅。 あまり好きじゃないんだ。 商店街は短い。暗くなっても星が無いし。 この時間、駅前だけは少し(にぎ)やか。 まだ開いている総菜屋に駆け込む。喫茶店をやっている人がこっちを見た。 今からカラオケに入る人達は、明日の仕事休みなのかな。 僕のアパートはここから歩いて15分くらいのところにある。 自転車を買うほどではないけれど、場合によっては距離を感じる微妙な立地。 寒い時、重い荷物を持ってる時、そして‥‥‥ 夜。 僕はの本屋で粘る。 ――22時。閉店。 この辺にしては、長く営業してくれていると思う。 適当な雑誌と好きな漫画を買って仕方なく店を出た。 ――トンネル。 この先は、まさにそんな感じ。 数えるほどの家。 店子(たなこ)がほとんど入っていない僕のアパートまで、本屋を境にこの道は真っ暗になる。 肩をまわして深呼吸をし、マラソンを始めた。 誰もいないし大声で歌おうか。イヤホンは防犯上、が怖い。 あまり考えていると転ぶな。 「はぁ、はぁ、よかった。今日も明るい」 立ち止まって息を整える。 ここまで来れば、アパートはすぐそこ。 僕の目の前には、まだ新しい一軒の家があった。 この(あた)りでは比較的大きく、駐車場には車が二台停まってる。 反対側には庭もあって、この家は夜、全ての灯りがついている。 門灯、玄関灯、一階、二階の窓。ライトアップされた裏側の庭。 ――みんな何時に寝るんだろう。 まだ住人に会ったことは無い。けれど、よく磨かれた窓ガラス、(すそ)に汚れの無いカーテンは、そこで(くつろ)ぐ幸福な家族を連想させた。 受験生がいるのかな。 誰かがパソコンを開いてよく寝落ちしてしまうのかも。 夜中に仕事をする方が、はかどる人達なのかもしれない。 いずれにしてもこの家が、僕にとって心の「()(どころ)」であることは間違いがなかった。
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