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僕
翌々日。
僕はとても疲れていた。
「なんでわざわざお客さんの前で怒鳴るんだろう‥‥‥」
あの社長、家ではきっと誰にも相手にされてないんだ。
だから社員に八つ当たりして。
──ちりん!
後ろでサイクルベルの音がした。
こんな時間に珍しいと思いながら右に寄る。
──ちりん!
なんだよ、ちゃんとどいたじゃないか。
景色が回転した。
自転車の倒れる音、一瞬黒い空が見え、僕は地面に強かこめかみをぶつけた。
そいつは背後から僕のリュックを掴んで引き抜こうとする。
――くそっ!
思い切り頭突きを喰らわせた。
「あがっ!」
ヤツが両手で顎を押さえた隙に立ち上がり、リュックを抱えて走った。
目の前に「灯りの家」がある。
「助けてっ! 助けてくださいっ」
しまったと思った。でも他に言い方が思いつかない。
夜中にこんなことを言われて、僕なら開けない。
巻き添えを食って殺されてしまったら、元も子ももないから。
家族がいるなら尚更だ。
背中がぞくりとした。
「ひったくり」が立ち上がっていた。
僕を目指しよろよろと歩いてくる。
「開けてくださいっ開けてくださいっ警察っ‼ 警察を呼んでくださいっ」
バタンッ‼ ガチャガチャン!
開いたドアに飛び込み、即座に施錠する。
「どうしたんだい!?」
僕より少し上、二十後半くらいの男の人が、ドアにチェーンをかけながら聞いてくる。
「ひったくりに追いかけられているんです。電話をかけさせてください」
玄関には、他に寝間着を着た五十過ぎの男の人と女の人、そして、後ろに隠れるように、高校生くらいの女の子がいた。
震える指で110を押しかけ、携帯を取り落とす。
「これ」
女の子が差し出した携帯を、僕は急いで受け取った。
ガンッ‼ ドアを蹴る音がした。
「きゃあっ」
女の子が叫び、耳を塞いでしゃがみ込む。お母さんが肩を抱いて立ち上がらせた。
ガンッ‼ ガンッ‼ ガンッ‼
男の人が僕の腕を掴む。
「奥へ行こう」
上がり框をまたいだ途端ブレーカーが落ちた。
誰かが息をのむ。
廊下を伝いながら、僕は必死で番号を押す。
「助けてください 助けてっ、 ひったくりがドアを」
ガタ――ンッ!
ドアが、開いた。
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