澤野

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 改札を出、商店街を歩く。 「あれ? 刑事さん? ひさしぶりだね。今日はあの女の子の方は?」 目敏(めざと)く見つけた本屋の店主が出てきた。 「きっと助けようとしたんだね。物静かで礼儀正しい人だったなぁ。『暗いから気をつけてな』って言うと、下を向いたまんま恥ずかしそうに『どうも』って言うんだよ」 事件直後は何を聞いてもろくに答えなかった店主が、事実を知るやテレビの取材にはこう語っていた。 犯人かもしれなかった青年に対して、迂闊なことを言えば商売に響く。 ──そう思ったんだろうな。まぁ仕方ないと言えば仕方ないが。 手短に挨拶を済ませ、澤野は現場に続く「道」に入った。 ――ずいぶん灯りが設置されたな。 これなら夜になっても三年前のように暗くはない。 携帯が振動し、澤野は電柱の影に立ち止まった。 「‥‥‥わかった。すぐ戻る」 生き証人であったあの青年が息を引き取った。 男のくせに、他人の家に逃げ込んで住人を巻き込んだ疫病神。 何の関わりも無い安全な場所で、退屈を(しの)ぎ続ける世間の声はこんなところだろうか。 ここからもう、更地となった現場が見える。 既に花束が置いてあるのが確認できた。 ──今日ぐらい、いいか。 合掌し、澤野刑事は踵を返した。
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