五十嵐美沙子

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五十嵐美沙子

 カーテンの隙間から外を(うかが)う。 いない!  本当に、誰もいない! 五十嵐美沙子(いがらしみさこ)は喜びのあまり叫び出したい気分だった。 ベッドに横になり、目を閉じる。 三年間、可能な限り(かよ)った。 花を持って、決して自分のせいじゃない、行きたくもない、身の毛もよだつあの更地に。 (先生はどうしてらしたんですか?) ――ナニヲヤッテイタンダヨ。 (生徒さんが苦しんでいるのに気づかなかったんでしょうか) ――ドウセ見テ見ヌフリヲシテイタンダロウ? 何も知らないくせに。 何度も助けようとした。 でも小野朱莉(おのあかり)は話を聞いてくれようともしなかった。 そうして事態は長引いて、あっという間に私は悪者にされ、その一方で勝手に転校と引っ越しを決めた小野一家は。 犯人を除けば、(ほか)に悪いのは(いじ)めた人間に決まっている。 もう小さくもない、大人をなめ切った愚かな人間が未成年だというだけで、 なぜ全てが私の責任になるの? 言ったところでどうにもならなかった。 その時の美沙子にとって、最優先事項は少しでも早く、マスコミに、周囲の目に、自分を忘れてもらうことだった。 だから(かよ)った。 可能な限り、あの更地に。 誰に何を聞かれても謝りとおした。 どれほど理不尽だと思っても、謝りとおしたのだ。 (まだ若い一担任に全てを押し付けて) (悪いのは犯人とイジメなのに) 三年。 やっと、周りの意識がそう流れはじめたのだ。 頃合いだ。 もう休みの度にあの場所のことを、花屋の前を通る度にあの場所のことを考えなくていい。 少しづつ、少しづつ回数を減らしていこう。 数年ぶりに訪れた安堵。激しい睡魔。 いつしか美沙子は、ぐっすりと眠っていた。
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