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いつも通りユリウスに叩き起こされて厳しい鍛練を終え、屋敷の雑用を手伝っていた俊輔の耳に、馬の嘶きと、馬車の車輪の音が近付いて来るのが聞こえた。 「シュンスケ。こっちだ」 ユリウスに呼ばれて、エントランスへ向かう。 玄関の扉は開け放たれており、ポーチを過ぎて階段を上ってくる人物を見付け、驚いた。 「ノアさん。…オルデールさんも」 ノアに連れられ、オルデールもおずおずと、屋敷に入って来た。 彼女は、深紅のこれまたド派手な上着に、首元にたっぷりとしたフリルが付いたシャツを、素晴らしく着こなしていた。 しかし、昨日の傍若無人な態度と打って変わって、どこか覇気の無い顔をしている。 ノアに促され、俊輔の前に立った。 暫く黙ったまま俯いていたが、やがて、毅然と顔を上げた。 「昨日は、すまなかった。君の事…悪く言い過ぎた」 「えっ」 謝られるとは思ってもみなかったので、つい声が出てしまった。 「あの後、ユリウスとノアに、凄い怒られちゃったよ…」 しょんぼりとしたオルデールが、何だか可愛らしく見える。 多分、彼女は怒られる事に、慣れていないのだろう。 「オルデールさん」 すっかりオーラが削げ落ちたオルデールに、頭を下げた。 「こちらこそ、いきなり腕、強く掴んじゃって、ごめんなさい」 彼女の、息を呑む音が聞こえた。 「オルデールさんに言われた事は、全部本当の事です。俺が勝手に劣等感抱えて悩みにして、勝手に、傷付いただけなんです」 「君…」 虚をつかれた顔で、彼女は何度か瞬いた。 二人の様子を見ていたユリウスは、 「わざわざ謝りに来た奴に、何でシュンスケの方が謝っているんだ」 と、呆れていた。 「君も、相当変わってるね」 オルデールは微笑み、照れて頬を掻いている俊輔に、掌を差し出した。 「シュンスケ。私と、友達になってくれる?」 しっかりと握手を交わし、彼もまた、笑顔で頷く。 「はい!よろしくお願いします。オルデールさんは、ユリウスさんとノアさんの、友達だったんですね」 「ノアと、幼なじみなんだ。私は武官だけど、家業の関係で、ノアの親と昔から親交があってね」 オルデールは佩刀していないし、軍人には見えなかったので、ユリウスと同じ武官と聞き、意外に感じた。 「シュンスケさん」 一区切りついたのを見計らい、ノアは穏やかな表情を俊輔に向けた。 「ユリウス様との結婚の事、オルデールが色々言ったみたいだけど…。実は彼女なりに、心配してくれていたのよ」 社交的なオルデールは、二人の結婚に対する、嫉妬混じりの陰口を耳にする機会が多く、うんざりしていた。 周りの反感を買ってまで結婚に踏み切り、式が決まっても叩かれ続けている状況を、危ぶんでいたそうだ。 「そう、だったんだ…」 彼女の見た目や雰囲気から勝手に、悪い方に捉えていたみたいだ。 「オルデールさんは、ユリウスさんとノアさんの事、大好きなのに」 「っ!?」 申し訳なさそうな俊輔の言葉に、オルデールの美貌が引き攣った。 「変な誤解をして、すみませ…」 「ちょっ…!おい、ユリウス!シュンスケの言ってる事、真に受けるなよ!?ノアの事は大好きだけど、お前の事が好きだってのは、誤解なんだからな!?」 「…え?」 ポカンとする俊輔と、真っ赤な顔で否定し、狼狽えるオルデールを見比べ、エントランスにユリウスとノアの、大きな笑い声が響いた。
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