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タクシーを降り、もたもたしながら自宅のドアを開ける朱里の様子を、四季は静かに見守っていた。
玄関で脱ぎ捨てられた靴がコロンと転がる。
同じようにコロンと朱里をソファ転がし、静かに寝息を立てている横顔を見つめた。
ーーあの言葉の意味は。
気持ち良さそうな寝顔からは、その言葉の真意は読み取れない。
「……なに?」
目を閉じたまま朱里が問いかけた。
『…起きてたの』
「いや。あまりにも鋭い視線を感じたから」
『なにそれ。酔っ払っても全然顔に出ないなぁって見てただけ。浮腫みとは無縁そう』
そう言うと、四季は手を伸ばし指先で朱里のフェイスラインをなぞった。そのままうなじに回し、抱きつくように顔を埋める。
ーー愛着が湧きそうで困る?
首筋にゆっくりと唇を押し当て反応を見るつもりだったが、そんな必要は無くすぐに朱里の手が服の隙間からするりと入ってきた。
素肌を撫でられると気持ちがよくて蕩けそうになる。こんなにも自分好みに激しく抱くというのに、愛着がない?
ーー愛着が湧きそうで困る。
何に?
『ねぇっ…、好きって言ってよ…』
「好きだよ」
間髪入れず言うくせに、愛着がない?
上に乗る身体を弄ぶように目一杯揺さぶるくせに。何度も何度も絶頂を味わわせるくせに。
こんなにもやさしくキスするくせに。
どうしても分からない。
彼は嘘つきなのか。
それともーー。
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