地下街、25時。

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我に返った私は、力の限り男の身体を押し返した。 『ふざけないでっ』頭に血が上る。 「ふざけてないよ。飯行く気になった?」 『なるわけないでしょ!そんな女いないわよっ』 「なんだ。キスして損した」 はぁ?!なにこの男!キスの対価としてご飯に付き合えってこと?!キスして損した?!そんなのこっちのセリフよ! 『こっちが損したわぁ!!』 大きな声が室外まで届いたのか、斗喜さんがやってきた。入口のところで腕組みをしながらこちらを見ている。 「どうしたの?何かあった?」 『…い、いえ…。あの、この後なんですけど、改めさせてください』 朱里から離れ、斗喜の元へ近づく。朱里は危険。そんな防衛本能が働いたのかもしれない。 斗喜の返事を待つ前に、私は足早に図書館を後にした。通路に出た瞬間、一目散に逃げた。 なんなの、なんなの、なんなのー!! 逃げて、逃げて、逃げて。一度も振り返らずに駅前のコンビニまで逃げてきた。私は一先ず深呼吸して、ミネラルウォーターを買った。外に出て、3分の2ほどを飲み干した。 『はぁっ』 あの男っ!!許せない!!次会ったらあの綺麗な顔を引っ叩いてやるんだから! 腕時計を確認すると、午前1時を回ったところだった。もう終電は間に合わない。ここから自宅までタクシーで帰ったら、数千円の出費だ。経費で落とすことは無理だろう。薄給の一人暮らしには痛い出費だと思いながら酔っ払いに混じってタクシーの列に並んだ。 朱里に対しての怒りはもちろんある。それと同時に、四季には別の感情が湧き上がってきている。 静まり返るにはまだ早い25時。ゆったりとした笑みを浮かべながらタクシーに乗り込んだ。
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