恋を知らない二人

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一斉にその声の主に注目が集まった。 もちろん私も振り向いたが、その人物を認めた途端、舌打ちをしたくなってしまう。 彼は、この大学で知らない人はいないだろうというほどの有名人だったからだ。 早乙女(さおとめ) 零二(れいじ) 文学部一年生。 私は同じ学部ということもありその名前を知っているが、おそらく他学部でも彼のフルネームまで知っている女子は多いはず。 それほどに彼はイケメンでモデル並みのスタイル、いつも明るい笑顔の社交的な優しい性格で友人も多いが、サークルには入らずコンパなどにもあまり参加しないという、お近付きになりたい人間にはなかなか機会を与えてもらえない、まるでアイドルのような存在だった。 そして彼には同じ学年に従兄弟の早乙女(さおとめ) 英一(えいいち)がおり、彼もまた女子から大人気だった。 英一の方は零二と違ってクールで口数も少なかったが、端正な容姿は大人びた雰囲気もあり、あまり表情が動かないところはまるでアンドロイドのように無機質な美形と噂されていた。 その早乙女の片割れが、…いや、よく見ると相方も離れた所からこちらを注視しているが、とにかくそんな有名人が突然話に飛び入りしてきた事に、悪口の花を咲かせていた男女グループの勢いはピタリと止まったのだった。 「早乙女君が不登校?そんなバカな」 「そうよ、零二君ならクラスの人気者だったんじゃないの?」 信じられないと訴える彼女達に、早乙女 零二はトレードマークの笑顔を濃くして告げた。 「俺は中学も高校も行ってないよ?事情があって行きたくても行けなかったんだ。でもそれが自分勝手?君達に関係あるのかな?」 「それは…」 「人にはそれぞれ事情があるんだ。他人が勝手に土足で入り込むべきじゃない。例えば君が先月俺にくれた手紙の事だって、俺は誰にも話したりしてないよ?」 「っ!」 早乙女 零二の最後のひと言はかなり強烈に彼女達を刺激したようで、顔を真っ赤にさせて席を立っていった。 そしてその後を男子学生が追い、騒音が消えると、早乙女君は私に歩み寄ってくるではないか。 「ごめん、余計なお世話だったかな?」 「別に…。静かになって助かったけど」 「ならよかった。それじゃ、またね。朝倉(あさくら)さん」 早乙女君はそう言って、眩い笑顔で去っていった。 同じ学部で今受けてる集中講義も同じなのに、彼と言葉を交わしたのはこれが初めてだった。 それは、私が極力彼らと接近しないようにしていたからで。 何も彼らを嫌っているわけではないが、ただとにかく、私は、モテる男子とはかかわりたくなかったのだ。 だから今後も、早乙女君達とはかかわり合うつもりはなかった。 それなのに………
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