恋を知らない二人

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「大丈夫?」 私の前に立ち心配そうに尋ねてくる早乙女君。 彼が優しい性格なのは疑いようがない。 「うん。ありがとう。お金は…」 「それくらいいいよ」 「じゃ、早乙女君のを私が出すよ」 「俺はいい。喉渇いてないから」 言われてみれば早乙女君は汗をかいていない。 「こんなに暑いのに?」 「うん」 イケメンは汗臭さなどとは無縁なんだなと感心してしまう。 「…じゃあ、ご馳走になります」 早乙女君は私に微笑むと、すっと私の背後に視線を逸らした。 気になって私も振り返るとそこにはある番組の広告が掛けられていた。 私達世代に人気の恋愛バラエティ番組だ。 初対面同士の芸能人が恋人という設定でデートをしていく番組で、フィクションだと分かっていても恋愛に興味津々の若い世代は狭間にリアリティを見出しているようだ。 私も見た事はあるが、恋愛経験もなければ恋愛事には軽い拒否感もあるわけで、彼らのように夢中にはなれなかった。 「朝倉さん、この番組知ってる?」 「まあ、内容は知ってるけど…」 広告を見つめたまま訊いてくる早乙女君に何やら嫌な予感が疼いてきた。 いや、まさかそれはないか。 いくらなんでもそんな短絡過ぎる事を言い出したりは… 「やってみない?俺達で」 嫌な予感は見事に的中。 「…は?」 剣呑な声になってしまったのは仕方ない。 急におかしな事言い出す彼が悪いのだ。 だが当の本人は至ってにこやかに言う。 「だから、恋人のフリ、してみない?」 私は頭を抱えてしまいたいのを堪えて 「なんで?」 短くも否定感満載に返した。 「だって俺も朝倉さんも恋愛感情が分からないんだったら、一度二人で恋人っぽい事してみたら、何か気付くと思わない?」 「思わない」 「即答だね」 クスクス笑われてしまう。 だが笑われようと早乙女君の提案に乗るわけにはいかなかった。 すると 「もしかして、俺、朝倉さんに嫌われてる?」 途端に早乙女君はしょんぼりした表情を見せてくる。 よくありがちな ”犬が耳と尾を垂らしてるような” という表現がぴったりだ。 だがそんな態度をしても、彼に特別な感情を抱いていない私にはたいした効果もないのに。 「嫌ってはいないよ。でも」 適当に流そうかとも思ったが、意外にしつこい彼の性格を目撃していた私は、ここはキッパリと答えることにした。 「私、モテる人とはあまり親しくなりたくないの」 まっすぐ告げると、早乙女君は気分を害した様子もなく 「俺がそんなにモテるとは思わないけど、でもどうして?」 ただ興味深そうに訊いてきた。
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