(四)

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(四)

 朝見がコーチとなる一週間前に行われたインターハイの地区予選。うちの陸上部は誰も県大会に進めなかった。俺たち一年生は登録が間に合わなかったり、部内での枠に入れるほどの実力がなかったりしたので出場はしていないが、競技場へは先輩たちの応援やサポートのために行っていた。  そこで感じた空気を思えば、これは当然の結果だろう。うちの部には全国を目指すとか、勝ち上がりたいとか、そういう張りつめた緊張感のようなものが決定的に欠けていた。大会というよりも記録会に近い緩んだ空気すら漂っていて、誰も自分が勝ち進めるとは思っていない。結果ではなく参加することに意味があるのだという雰囲気。  どこか物足りなさを感じなかったわけではないが、あの苦しさを味わうよりはよっぽどいい。このまま俺も今の先輩たちと同じように緩やかに時間を過ごすのだと、それでいいのだと――そう、思っていたのに。  こんなにも変わるものなのだろうか。  朝見コーチが来てわずか二週間。部内の空気は確実に変化していた。今までは決められたメニューを淡々とこなし、時間になったら解散するというどこか流れ作業にも似た動きだったが、今はもう何をやるにもピリッと引き締まった空気が流れる。  今後の参考程度にたった一本タイムを取るだけであっても、朝見コーチがゴールの先で待っているというだけで「もっと速く走りたい」と思わずにはいられなくなる。アドバイスが的確だからとか、コーチとして信頼できるからとか理由はそれぞれにあったけれど、一番はやはり『朝見凛』だからなのだろう。その姿を見られるだけで、その声を聞けるだけで、その存在に触れられるだけでこんなにも幸福なことはないと思わされてしまう。朝見凛という存在そのものがもつ意味。ひとを引き寄せ、確かな光へと導く力。それは「もしかしたら自分も……」という希望を作り出す。朝見凛ほどではなくとも、もっと先の自分に会うことができるのではないかと思わされる。  ――だから、苦しかった。  俺ももう一度跳べるのではないかと、もう一度あの景色を見られるのではないかと希望を持ってしまいそうで。  地区予選後に鷹人と電話で話したときだった。高校でも走高跳を続けている鷹人は支部予選(うちでいう地区予選)にもちゃんと出場し、都大会へ進むことを教えてくれた。鷹人の実力を思えば当然の結果だし、鷹人の家は陸上一家で有名だから何も驚きはない。俺は素直に「おめでとう」と返した。「遼平のところは?」と聞き返されて嘘をつく必要もないだろうと結果を含め、感じたままを俺は伝えた。 「遼平はそれでいいの?」  同情や労わりを含まず放たれた問いに、一瞬息が止まった。  ――それでいいの? 「それ」は部内の緩んだ空気に対してなのか。向上心の感じられない先輩たちに対してなのか。それとも俺自身が走高跳をしていないことに対してなのか。――いや、その全部なのか?  何が「それ」で、何が「いい」のか、明確にはわからなかったけれど、返す言葉だけは決まっていた。それしか言えることはなかったから。 「い、いいに決まってるだろ。もう俺はああいうのはごめんだから」  ほんの一瞬だけ揺れてしまった俺の声も含め、鷹人はきっとわかってくれるだろう。どんなときでも鷹人は俺の気持ちを汲み取ってくれる。鷹人はそういうやつだから。 「……そっか。あ、そういえば遼平、今週のアレ読んだ?」 「あー、読んだ、読んだ。いや、まさかあそこでああ来るか?」 「な、びっくりして前のページに戻ったわ」 「俺も、俺も」  少しのわざとらしささえ鷹人の優しさだ。俺は鷹人に合わせるように声を弾ませた。  伸ばした足の先へと上半身を倒しながら、 「あのさ、なんかないの?」  背中を押してくれている同級生の平井に話しかける。 「なにかって?」  掛け声に合わせてリズムを崩すことなく込められる力に、呼吸のタイミングを合わせながら俺は声を小さくする。一応、部活中の私語は禁止だ。 「いや、平井は走高跳だからさ、もっと朝見コーチに教わりたいんじゃないかなって」  たった二週間でもここまで部内の空気は変わったのだ。初めは朝見コーチにどこか遠慮がちだった部員たちも会話を重ねるうちに打ち解け、今では積極的にアドバイスを求めるまでになった。  ――もっと速く、もっと高く、もっと遠くへ。  陸上におけるシンプルな想いが部内で共鳴し合っているのがはっきりとわかる。  それでも。  俺はそこに入るのを拒み続けていた。高まっていく熱に気づきながらも、飲み込まれないようにと必死に体を強張らせる。朝見コーチからもらった光を纏っていくチームメイトを目にしながらも、一度止めてしまった俺の足が動くことはなかった。  そんな俺を朝見コーチは気にかける。まっすぐ陸上に、これまでの自分に向き合い始めた部員たちではなく、何事にも中途半端にしか向き合えない俺ばかりを構おうとする。俺もまた面と向かって「放っておいてくれ」とは言えずにいる。明らかな特別扱いに、ほかの部員が不満に思ってもおかしくはないはずだった。そんな俺でも記録だけは伸びていたのだから――余計に。 「いいの、いいの」  平井は笑って言った。ウソなど含む余地のないカラリとした声で。 「でも……」  俺はもともと高校で陸上を続けるつもりはなかった。今の場所に越してきてこの学校に入ったら、運動部の選択肢がとても少なかったために選ばざるをえなかっただけで。希望したわけではなく消去法。「仕方なく」入ったに過ぎない。入部してすぐ佐々木先生に希望種目を聞かれたときも「走高跳以外ならなんでもいいです」と答えたくらいだ。自然と飛び出してしまった自分の言葉に驚き、傷ついたのは俺自身だった。先生は理由を追求することなく「そうか、じゃあトラック種目の方がいいか」とだけ言った。そのひとことに俺はひどく救われた。このままでも、それでもいいと言われた気がして。  それなのに。  どうして今さらまたここに戻らないといけないのか。向き合わないといけないのか。俺はもう――。 「こんなに近くで見られるだけで十分だから」  静かに落とされた言葉に俺の視線も平井のそれと重なる。朝見コーチはストレッチを行っている部員たちの大きな輪から外れ、今日のメニューを手元のタブレットで確認していた。広いグラウンドの端に立っているだけなのに、その存在感が消えることはない。どこにいても一瞬にしてわかってしまう。惹きつけられてしまう。悔しいほどに。 「それに、あの差し入れの量だけで十分に恩恵受けてるからね」  ふっと空気が動くのを感じ、平井が振り返った方へと顔を向ける。校舎からグラウンドへと続く階段のそばには、今日も段ボール箱が積み上がっている。たぶん十箱くらい? 朝見コーチのことを知った陸上部のOBや父兄だけでなく、陸上部とも学校とも関係のない、それこそ県すら違うようなひとたちからも差し入れが届き始めたのだ。陸上界に復帰したわけではない。強豪校の監督になったわけでもない。それも姿を現してからわずか二週間しか経っていないというのに、その影響は確実に広がっていた。  陸上部が恩恵受けるのと同じで、数年後には廃校かと噂されていた学校にも来年度の入学についての問い合わせが殺到しているらしい。町全体でいえば、連日報道されているにも関わらずマスコミによる大きな混乱はなかった。取材はとても紳士的で、むしろこれを機に町の魅力を伝えようと住民の方が盛り上がっている。そのおかげか町役場を訪れる移住希望者が増えているという。  これだけの騒ぎになっているというのに、朝見にも俺にも文句を言う人はいなかった。むしろ「町興しになっている」とばかりに感謝される始末。すべては朝見のおかげだったが、その朝見をこの場所に引き寄せたのが俺ということになっているので俺に対する感謝を口にする者までいる。  朝見にそのつもりがあったかどうかはわからないが、まさに俺は外堀を埋められた状態だった。返事をしたつもりも、受け入れたつもりもないが、周りはみんな俺を『朝見凛の婚約者』として認識していた。  いつのまにか季節は春から夏へと変わり、気温の高さに湿気の重みを感じさせる空気がまとわりつくようになった。梅雨入りも間近に迫った六月中旬。不安定な天気が続く中、体育祭を明日に控えグラウンドは全面使用禁止になった。  陸上部の練習も完全に休みで、俺は日直として放課後の職員室に来ていた。担任の机に日誌を置き、佐々木先生に挨拶だけして帰るつもりだった。  それなのに――それはなんの前触れもなく俺の視界に入り、一瞬にして胸の中をざわつかせた。 「……なんで、俺の名前があるんですか?」  一か月後に行われる記録会の申込書。机の上に無造作に置かれていたそれを手に取り、俺は震えかけた声をぐっと落として堪える。椅子に座ったまま振り返った佐々木先生は「ん? みんな自分が希望したところに書いてあるだろう?」と不思議そうな表情を見せる。 「俺はフィールド種目の希望は出してないですけど」 「そうなのか? じゃあ、朝見コーチの配慮かな」 「配慮って」 「誰がどの種目をやるかの最終判断は朝見コーチに任せて……」  俺は先生の言葉を最後まで聞けなかった。書類を手にしたまま「失礼しました」と声を響かせてドアを閉める。職員室前なので駆け出したいのをどうにか堪え大股で歩く。朝見はきっともう来ているだろう。  ――今朝も母さんは果物の入った器を食卓に置いた。  朝見が来てからずっと我が家の朝食にはデザートが出るようになったので、もはや見慣れた光景だ。サクランボを片手で口に放り込んだ俺に、隣で同じように赤い実を手にした朝見がふっと視線をこちらに向け「今日、迎えにいくね」と小さく笑った。体育祭の準備が始まってからは陸上部の練習自体が減っていたので(行事との兼ね合いで部活が自主練ベースになっているため)、最近は学校で朝見に会う機会も少なくなっていた。朝見が来る日は必ず車で一緒に帰らざるをえないので、ここしばらくはひとりの時間が増えて俺自身はホッとしていたのだが。 「……部活ないけど?」  コクン、と飲み込んでから口を開いた俺に、朝見もコクンと喉を動かしてから言った。 「うん、知ってる。部活もないけど、体育祭の練習も前日だからないでしょ?」 「そうだけど」  陸上部としての自主練はもちろんやっていたが、最近の俺は体育祭種目の練習に参加している時間の方が長かった。おそらく当日一番盛り上がるであろうチーム対抗リレー。各クラス男女二名ずつが参加するそれは基本的に足の速さでメンバーが決められる。幸か不幸か朝見のおかげで走力がついてしまった俺はあっさりとクラスの代表にされた。 「今日は僕とデートしてほしくて」 「――は? デ……」  もうひとつ、と運んでいた俺の指先からサクランボがテーブルへと落下する。俺の視界の端、転がった艶やかな表面は小さく光を反射させる。言葉を続けようとした俺よりも先に向かいに座る母さんの高い声が響いた。 「あら! いいじゃない。夕飯遅くなっても大丈夫だから楽しんでいらっしゃいね」 「ありがとうございます」  母さんに微笑んだ朝見は俺が手を伸ばすよりも先にサクランボを拾い上げ「ふふ」と小さく笑ってから自分の口へと運んだ。 「初デートは大切な思い出にしたいから。楽しみにしていてね」 「……」  言葉を失った俺の目の前で、薄く濡れた唇を動かし、朝見が「美味しいね」と頬を上げた。  こうなってしまったら、俺に拒否権はない。  朝見が現れてからのこの一か月。この生活に慣れてきてしまっているのが自分でもわかる。最初の頃の出来事があってすぐに、俺は部屋まで起こしに来るのを禁止した。朝見は「遼平がイヤなことはしないよ」とあっさり了承してくれたが、一瞬でも俺が隙を見せようものなら所かまわず「愛してる」だの「可愛いね」だの言ってくる。何度手を振り払ってもそのたびに「照れなくていいのに」と微笑まれる。照れているわけではないと、迷惑なのだと言いかければあの整った顔を寂しそうに歪ませて俺の言葉を押しとどめる。従順な犬のように見えて、振り回されているのは確実に俺の方だった。  一瞬にして距離を詰めてくる強引さ。けれどその中にもどこか俺の逃げ道は用意されていて。ふわりと柔らかく包むだけで。俺が抵抗すればするりとその手を放す。強く柔らかく。近いのに近すぎない。絶妙な距離感を保ちながら言葉だけは忘れず浴びせてくる。これでおちない人間がいるのか、と思うほどに朝見のそばは心地よくなっていく。  ――だけど……これは、今回のこれだけは、いくら朝見でも勝手に踏み込まれたくない場所だった。  校舎を飛び出すと、グラウンドからの風が全身へと吹きつけてきた。思わず目を閉じた俺だったが、その足は止まらなかった。細かい砂が肌に当たる感触も、耳元で唸りをあげる風の声も今の俺の気持ちを落ち着かせることはできない。曇り空の下であっても一瞬にして見つけられてしまった朝見のもとへと俺は走る。  朝見は体育祭の準備が終わったグラウンドを見渡していた。部活中はジャージ姿だけど今日は白い肌に映える水色の薄手のシャツを着ていて、強い風の中でも甘く柔らかな香りが流れてくる。振り返った朝見は俺を見つけると、ぱっと表情を和らげた。 「これすごいね。遼平はどこのチームなの?」  背中を反らせるようにして朝見が見上げていたのは、チームごとに作られた看板だった。二メートル四方の板にそれぞれのチームカラーを使って応援メッセージが書かれている。これを目印にたくさんの椅子が並べられ明日には立派な観客席が出来上がる。辺りにはまだ薄くペンキの匂いが漂い、風が強まるたびにガタガタと不規則な音が響いていた。 「遼平?」  俺の名前を呼び、屈託なく笑うその顔さえ今は憎くてたまらない。 「これ、どういうことだよ!」  吹き飛ばされないように強く握っていた紙は俺の手の中で大きく皺を寄せる。風になびく髪を片手で押さえながら、朝見は突き出された俺の手へと視線を動かす。そっと静かに息を吐き出すと、俺をまっすぐ見つめて言った。 「やっぱり遼平には走高跳をやってもらいたくて」 「やっぱりって、勝手に決めるなよ! 俺はもう跳ばないって決めたんだよ!」 「どうして?」 「どうしてって」  ぐしゃりと潰れる紙の感触に視線が下がる。足元にできている自分の影は薄く、空に浮かぶ雲が風に流されながらわずかに残っていた光さえ奪っていく。  ――跳べないから、とはどうしても言えなかった。  俺はぐっと声を詰まらせ押し黙る。次の瞬間、耳に届いたのは、鼓膜に触れたのは、風の声でも看板が震える音でもなかった。俺だけのために、俺だけに届くようにと願いすら込められた優しい言葉だった。 「遼平は跳べるよ」 「……な」  ――何も知らないくせに。  思わず顔を上げてしまった俺は、その瞳に吐き出すはずだった言葉を押し戻される。 「大丈夫。僕がもう一度、遼平に空を見せてあげるから。だから僕を信じて」  そっと触れられた両肩に確かな温度が流れ込む。真上には雲が広がっているはずなのに、逸らすことのできない視線の奥には変わることのない青空がある。  朝見に「信じて」と言われて「信じられない」と返せる人間がいるだろうか。  ほんの少しでも彼を、彼の競技を見たことがあれば、ほんの一瞬でも彼の言葉に触れたことがあればそんなこと言えるわけがない。どんなに無理だと、どんなに諦めていることであっても信じたいと思わされてしまう。 「……っ」  それでも俺は頷けない。頭では、いや心でさえも理解してしまっているのに、それでもまだ、どうしても俺は過去を忘れることができない。 「し、信じるとか信じないとかそういう問題じゃないんだよ! 俺は跳ばないからな!」  朝見のまっすぐな瞳が俺は怖かった。  その瞳にこそ憧れ続けたすべてがあるから。映し出される自分の姿がそれとは程遠いところにいるのだと実感させられるから。憧れと現実。希望と絶望。朝見が俺に見せる景色はあまりにも眩しくて、眩しすぎて……苦しかった。  ――俺だって、跳びたい。跳びたくて仕方ない。  本当は誰よりもあの瞬間に焦がれている。もう一度あの場に立てたなら、と考えてしまう。  中学三年生のときの――俺が走高跳をしていた頃の――最後の大会。ここで記録を出せれば、もしかしたら全国に行けるかもしれないというところまで俺はきていた。  まっすぐ横に置かれたバーを見つめ、ひとつ深呼吸をする。マークを辿りながら自分の足元へと視線を移動させる。もう一度軽く呼吸を整えたら助走開始。余計な力は入れずにリズムを刻むだけ。加速は八割まで。重要なのは踏み切り。俺を上へと導く力。それさえ掴めば自然とバーは越えられる。――本番直前のイメージは問題ない。  イメージだけでなくその瞬間の感覚さえもはっきりと掴みとれる。今までの練習のすべてが体に刻み込まれ、指先にまでしっかりと沁み込んでいるのがわかる。緊張はあっても不安はない。部内のほかのメンバーに声をかけられるほどの余裕もある。その日の俺の状態はベストに近かった。  それが余計に……消えない傷となって俺を苦しめた。期待がなければ、希望がなければこんなに苦しまなかった。手が届くかもしれないと思ってしまったからこそ、あんなことさえなかったらと「もしも」を考えずにはいられなくなる。同時に、もう二度と思い出したくはない、と心が叫ぶ。  一瞬にして蘇ってしまった苦い記憶に、俺は繋がっていた視線をぶった切る。 「もう、放っておいてくれよ」  顔を背けた勢いのまま触れていた熱を弾き返し、俺は駆け出した。 「遼平っ!」 「だから、俺はもう跳ばないって……」  伸ばされた腕を振り払うと同時に振り返った俺の目の前――。  その瞬間の出来事をどう表せばいいのかわからない。目の前に迫っていたのは大きな影。俺の視界から空を隠してしまうほどの大きさ。日が沈む前にも関わらず暗くなっていく景色。すべてがゆっくりと動いて見えた。気づけば俺は強い力に体を突き飛ばされていた。地面にぶつかった痛みよりも、目の前で影に押し潰されていくその姿が脳裏に深く刻み込まれる。  ――音は、何も聞こえなかった。 「……っ」  名前を呼ぶことも、声を上げることもできない。目の前の光景をただ見つめることしかできない。 「朝見コーチ!」 「朝見さん!」  どこからか誰かの声が、朝見を呼ぶ何人かの声が急に聞こえだし、俺の耳にも音が戻る。止むことのない風の音。隣のチームの看板が震える音。取り囲まれるように大きくなるざわめき。 「っ」  それでも俺は呼び掛けることができない。バクバクと大きくなる鼓動に、呼吸すら満足にできなくなる。固定されてしまった視界の中、小さな影は俺の足先にかかったまま動かない。派手な音とともに土煙をあげたはずの看板と地面のすき間。見慣れた、見慣れてしまったその淡い色の髪だけが揺れていた。
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