2.ないしょのやり取り

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2.ないしょのやり取り

研修期間中は、雄介さん以外にも何人もの人が教えに来てくれていたし、特別仲がいい2人というわけではなかった。 この時期は頭に入れなきゃならないことばかりで、MRの業務についてや、医療面の知識などを頭に入れなければならなかった。だから、帰宅後もひたすら知識を詰め込むために机に向かっていた。勉強なんて大学を卒業して以来で、頭がパンクしそうになっていたことは自分でもわかっていた。 私の他にも同じ研修を受けているメンバーは6人。みんな同じような感じだった。 研修の後半は、本社で勉強会が行われることになっていた。本社は電車を3回乗り換えなければならないところにあり、同期で集まって一緒に行くことになっていた。 その朝、雄介さんからLINEが入った。 「今日は本社で研修ですね」 「はい、行ってきます!」 「学ぶことが多くて大変だと思いますが、応援していますよ。FIGHT!」 「はい、ありがとうございます。がんばります!」 「この仕事は体が資本なので無理はしないで」 「了解です!」 早いレスポンスでこの場で話をしているようだった。しかも、言葉のチョイスがすごく優しくて、心がほわってなっていた。 その思いが顔に出ていたようで、「何かいいことでもあった?」と隣の席に座っていた雅が声をかけてきた。 「雅にも吉住さんからLINEきた?」 「え?来てないけど」 「そう…」 「もしかして、吉住さんから何かきたの?」 雅が興奮したかのようにわたしの腕をつかんだ。 「いや、気をつけて行って来いって。それだけ」 「ふ~ん、そっか。でもなんで理子にだけ?」 「忙しかったんじゃないかな?グループラインにしてないし。」 「まぁ吉住さんと仲良いもんね」 「ホントそんなんじゃないって」 そういって雅のことはやり過ごしたけど、本当は吉住さんが私にだけメッセージを送ってくれたことが本当にうれしかった。 ないしょのメッセージをやり取りしたことが疲れ切っていた私に元気を差し入れてくれた。 研修が無事に終わり、またみんなで帰ろうと電車を待っていた時、LINEが入った。 スマホには吉住雄介の名前になっている。メッセージを開こうとしたとき、電車到着のアナウンスが響いた。 電車に乗ると、混んでいてみんなバラバラになってしまった。あたりを見回して、誰も見ていないのを確認してからLINEのメッセージを見る。 「今日はお疲れさまでした。今は移動中ですか?」 「お疲れさまです。はい、移動中です。」 「オレも営業先を出たところです。今日は疲れたでしょうからゆっくり休んでください」 「そうなんですね、お疲れ様でした。運転気をつけてくださいね」 「ありがとう。がんばった水野さんの頭を撫でてあげたいなぁ」 「! そんな褒められるようなことはしてないですよ。勉強してきただけなので」 「オレの外回りより勉強の方が大変だと思うから」 「ありがとうございます。うれしいです!」 顔が思わずにやけてしまう。 頭を撫でたいってどんな表現なのよ。吉住さんに気に入ってもらってるのかな、それともただの比喩?からかわれているの?なんてどんどん自分の中でわけがわからなくなってしまった。 でも、素敵だなって思っていた上司からこんなふうに気を使ってもらうのは本当にうれしい。 でも、もしかしたら雅や他の女性の同期にも送っているのかもしれない。そう考えてしまった。私だけなんてことがあるのかしら? そんな風に考えを巡らしているところにまた吉住さんからLINEが入った。 「もしよかったら一緒にメシでもどう?気晴らしに…」
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